認知症の方の自動車運転について
2018.06.03 放送より
平成29年3月12日に道路交通法が改正され早いものでもう1年余りが立ちましたが,これを受けまして伊月病院にも月に2-3人は認知症かどうかの診断のため受診される方が来院されております.本日は,改正された道路交通法の要点と認知症かどうかの診断書の作成についてお話いたします.
まずは昨年3月12日に改正された道路交通法の認知症に関わる部分ですが,今回の改正よりも以前から75歳以上の高齢運転者の方は,免許更新に合わせて3年に1度,認知症かどうか検査を受けられ,これによって認知症の恐れのある第1分類,認知機能が低下している恐れのある第2分類,認知機能の低下している恐れのない第3分類に分けられ,認知症の恐れのある第1分類の方は信号無視,通行禁止違反,通行区分違反など特定の違反をした場合に医師の診断を受けなければならず,それによって認知症と診断されれば免許の取り消しまたは停止が決まることになっておりました.また違反がない場合は認知機能の低下の恐れがある第2分類の方やそういった恐れのない第3分類の方と同様に認知機能に応じた講習(一律に2時間半)を受け,講習が済んだら次の免許更新の3年後までは認知機能検査や医師による診断はありませんでした.これに対して,改正後は認知症の恐れのある第1分類の方は違反の有無にかかわらず臨時適性検査または医師の診断による診断書提出が必要となりました.この診断書につきましてはあとで改めて少し詳しく述べます.また認知機能の低下している恐れのある第2分類の方は実車指導や個別指導など計3時間のより高度な高齢者講習を,認知機能の低下していない第3分類の方も実車指導などで計2時間の高齢者講習をそれぞれ受けることになっております.さらに重大な事故を起こすことにつながりやすいとして定められた一定の違反(信号無視,通行禁止違反,通行区分違反,指定通行区分違反,徐行場所違反,合図不履行,安全運転義務違反など18種類)を途中で起こした場合には,第1分類の中で医師の診断時点では認知症にまではなってなかったと診断されている方でも改めて臨時適性検査または医師による診断書の再提出が必要となり,第2分類の方は認知機能検査の結果が前回よりも悪くなっている場合に2時間の臨時高齢者講習を受けるようになりました.
さて次に医師による診断書が必要かどうかの基準になる免許更新の際の認知機能の検査ですが,これは時間の見当識(何年,何月,何日,何曜日,何時など5問で15点満点),おのおのに特に関連性の無い16枚の絵を見せて後で何があったか答えてもらう手がかり再生(ヒントあり,32点満点),丸い文字盤を書いてその中に文字盤の文字と時刻を示す長針と短針を描く時計描写(7点満点)などからなっており,約30分で行われ,得られたそれぞれの点数に乗数をかけて調整して100点満点といたします.この点数が,49点未満の方が記憶力や判断力などが低くなっている第1分類,49点から76点未満の方が記憶力や判断力が少し低くなっている第2分類,76点以上の方が記憶力や判断力に心配の無い第3分類に分けられます.そしてこの49点未満の第1分類の方が改めて医師の診断書が必要になるというわけです.この検査は近時記憶や時間の見当識といった認知症の初期に障害され易い症状に加えて,理解力や判断力,問題解決能力といった前頭葉の機能や視空間の認知機能といった交通事故にも関連が深いと思われる障害をより客観的に評価することが出来るものと考えられます.
それでは第1分類となって認知症が疑われるため医師の診断書の提出が必要となった場合についてお話いたします.こうなるとまず認知症かどうか診断をしてもらえる医療機関を受診する必要があります.認知症の定義ですが,記憶力や判断力,会話能力などの認知機能が進行性に低下して社会生活に支障をきたした状態であり,意識障害やうつ病など気分の障害などを除外すること必要があります.このため診断には認知機能の検査,神経学的な診察,脳MRIなどの画像検査や甲状腺機能やビタミンB群の定量などの血液検査を行います.このうち認知機能検査には,スクリーニング検査として有名なMMSEやHDS-Rのほか軽度認知障害も見落とさないようにするため開発されたMOCA-J,前頭葉機能に特化したFAB,さらに記憶検査ではリバーミード行動記憶検査(RBMT)と言いまして,日常生活により近い状況を模擬的に作って(顔写真や絵,物語などを覚えてもらいあとで尋ねる,持ち物を預かってあとで返却を要求してもらう,道順の記憶など)日常記憶の障害の検査が出来る検査なども必要に応じて取り入れております.とはいうものの認知症の診断は,症状やその程度がそれぞれ千差万別であり,早期の場合画一的に行うことはきわめて困難なのが現状です・
徳島県においては,自動車運転は日常生活で必要不可欠なことも多いのですが,その一方では事故を起こしてからでは取り返しのつかない事態を招く恐れもあります.現在,認知症のみが絶対的な不適格な疾患ではありますが,予備軍の人にとってもいつの間にか移行している恐れがあり,普段から注意が必要であると思われます.
SITE MENU
- 当院について
- ご案内
- 診療科
- 看護部
- リハビリテーション部
- 栄養部
- 薬剤部 検査部 放射線部
医事課