脳梗塞について

2017.08.06 放送より

 以前に2回にわたって出血によって起こる脳血管障害についてお話ししましたので,本日は虚血すなわち血流不足によって起こる脳血管障害,すなわち脳梗塞についてお話しいたします.

 それでは今回も本題に入る前に以前にお話しした脳の血管について簡単に説明いたします.脳には頚動脈と椎骨動脈という2種類の動脈が左右それぞれ(すなわち4本)あります.頚動脈は大動脈から分岐して頚のあたりで内頚動脈となって脳の中に血液を送ります.この内頚動脈は海綿静脈洞から頭蓋内に入り,椎骨の中を通って延髄の前を上行してきた椎骨動脈が左右に合わさって出来た脳底動脈と後交通動脈という枝により交わり,ウイルス動脈輪というネットワークを作ります.これによりもし1本の動脈がどこかで詰まっても残りの動脈から血液を融通し合って脳に血液が通わなくなることを防ぐことが出来ます.そして内頚動脈はその後,左右の前大脳動脈と中大脳動脈に枝分かれをします.このうち前大脳動脈は内頚動脈から分かれた後,前交通動脈にて左右の連絡を取りながら正中(真ん中)を左右並んで前上方に進んだ後,脳梁という大脳の梁のような部分に沿うようにして前方から後方へと大脳の上部を巡回してゆきます.すなわち前大脳動脈は脳の真ん中上方部分の血流を支配しております.次に中大脳動脈ですが,これは脳の中で最も太い動脈であり,シルビウス裂という前頭葉と側頭葉の間の隙間を内側から外側に向かって走行してゆき,穿通枝と呼ばれる小さな枝をいくつも出しながら脳の表面に達しますが,その支配領域は側頭葉,前頭葉,頭頂葉と脳の前方のほぼ2/3を占めております.一方,椎骨動脈ですが,これは頸骨の横突起の中を通って大孔から頭蓋内に入ってゆき,延髄の上縁で左右が合わさり脳底動脈となります.脳底動脈からは小脳や脳幹などに小さな動脈がいくつか出て行き,脳底部で再び左右の後大脳動脈に分かれます.後大脳動脈は,後頭葉,視床および側頭葉と頭頂葉の一部を支配しております.

 それでは脳梗塞についてお話しします.脳梗塞は日本では毎年約50万人が発症し,約150万人の患者がいるとされ,死因は癌や心筋梗塞などに抜かれて第4位となりましたが,後遺症を残して介護が必要となり,寝たきり状態の人の約3割を占めるといわれており,介護や福祉の面でも重要な疾患です.脳梗塞は,脳を栄養している動脈が何らかの原因で閉塞するか,あるいは狭窄して脳にとって必要な血液を供給しきれなくなり,いわゆる脳虚血をきたして,脳組織が酸素や栄養不足のため壊死に陥ることにより発症します.脳梗塞は脳血管障害の約3/4を占め,死亡される原因の約60%を占めると言われています.そしてその種類には,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,脳塞栓があります.

脳梗塞の中でも一般的なものはアテローム血栓性脳梗塞です.これは,動脈硬化に関係が深く,心臓から全身に血液を送るために出てくる大動脈,その大動脈から頭に血液を送るために分岐した頸動脈,さらには頭の中の比較的太い動脈が動脈硬化を起こした結果,①動脈硬化によって細くなった血管が血栓により閉塞する,②動脈硬化によって動脈壁に出来た血栓がはがれて血流に乗ってさらに末梢のより細くなった動脈で詰まって閉塞する場合があります.その原因は糖尿病,高血圧,高脂血症などの生活習慣病やストレス,喫煙,大量飲酒,脱水,肥満なども原因となります.血栓性脳梗塞では約半数に前触れとしての一過性脳虚血発作(TIA,脳梗塞を起こしかけて麻痺やしびれなどが起こっても24時間以内に元に戻る)が認められると言われています.次にラクナ梗塞ですが,これは脳の深部にある直径1mm以下の細い動脈が閉塞して起こる15mm以下の小さな脳梗塞のことを言います.その原因は主に加齢や高血圧であります.それから脳塞栓ですが,この中には心原性脳塞栓と言って心房細動や心臓弁膜症,心筋梗塞など心臓が原因で心臓の中に血栓ができて,それが脳まで飛んで大きな血管を突然閉塞して発症するものや脂肪組織(骨折などで骨髄から出てくる)や空気などが脳に詰まって起こることもあります.

 脳梗塞の症状は,閉塞して壊死に陥ってしまった神経組織の局在部位によって,意識障害,片麻痺,言語障害(失語症や構音障害),感覚障害など様々ですが,脳血栓症の場合は少し症状が出ていったん軽減した後,また進行したりして階段状に進んだり,ラクナ梗塞のように一回ごとには無症状であっても何度も積み重なって多発性脳梗塞としてパーキンソン症状や認知症をきたしてしまうことがあります.これに対して脳塞栓は突然に発症していきなり大きな障害をきたしてしまうことがあります.治療としては,まずは起こさないように生活習慣病のコントロールや夏場では脱水の予防が大切です.また血栓を予防するために抗血小板剤や抗凝固療法を行うこともあります.そして不幸にして発症してしまった場合でも,3時間以内であれば,t-PA(tissue-plasminogen activator:組織プラスミノゲン活性化因子)という強力な血栓溶解酵素を注射することにより,劇的に症状を改善させることが出来ることもあります.このためにも早期発見にむけてMRIを用いた早期の診断が重要であります.

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