高血圧性脳出血について
2017.04.02 放送より
本日は,神経内科の中でcommon diseaseとされている4つの疾患,すなわち脳血管障害,頭痛,てんかん,認知症のうち脳血管障害についてお話しします.脳血管障害は日本人の死因の第4位を占め,要介護に陥る要因としては第1位となる重要な病気です.脳血管障害は,血管が破れて起こる出血性の病変と血管が詰まって起こる梗塞性の病変に大きく分けられますが,今回は出血性の病変をきたす疾患の代表として高血圧性脳出血についてお話しします.
本題に入る前に脳の血管について説明いたします.脳には頚動脈と椎骨動脈という2種類の動脈が左右それぞれに分布(すなわち4本)しております.頚動脈は大動脈から分岐して頚のあたりで脳の中に血液を送る内頚動脈と顔の方に血液を送る外頚動脈に分かれます.そして内頚動脈は海綿静脈洞から頭蓋内に入り,後交通動脈を出して椎骨動脈から来た脳底動脈と交わり,ウイルス動脈輪というネットワークを作ります.これによりもし1本の動脈がどこかで詰まっても残りの動脈から血液を融通し合って脳に血液が通わなくなることを防ぐことが出来ます.そして内頚動脈はその後,左右それぞれさらに枝分かれしてゆき前大脳動脈と中大脳動脈になります.このうち前大脳動脈は内頚動脈から分かれた後,前交通動脈にて左右の連絡を取りながら正中(真ん中)を左右並んで前上方に進んだ後,脳梁という大脳の梁のような部分に沿うようにして前方から後方へと大脳の上部を巡回してゆきます.すなわち前大脳動脈は脳の真ん中上方部分の血流を支配しております.次に中大脳動脈ですが,これは脳の中で最も太い動脈であり,シルビウス裂という前頭葉と側頭葉の間の隙間を内側から外側に向かって走行してゆきます.この時途中で穿通枝と呼ばれる小さな枝をいくつも出しながら進むのですがその中の1本は外側レンズ核線条体動脈(別名脳出血動脈)と呼ばれており,この部分の障害で被殻という部分に出血や梗塞をきたすため大変重要な血管です.中大脳動脈はその後,脳の表面に達しますが,その支配領域は側頭葉,前頭葉,頭頂葉と脳の前方のほぼ2/3を占めております.さてそれから椎骨動脈ですが,これは頸骨の横突起の中を通って大孔から頭蓋内に入ってゆきます.そして延髄の上縁で左右が合わさり脳底動脈となります.脳底動脈からは小脳や脳幹などに小さな動脈がいくつか出て行き,脳底部で再び左右の後大脳動脈に分かれます.後大脳動脈は,後頭葉,視床および側頭葉と頭頂葉の一部を支配しております.
それでは高血圧性脳出血についてお話しします.脳出血は,昔は脳溢血とも呼ばれていたことがあり,脳の中の血管(主に直径200-300μmの細い動脈)が破れて脳の中に出血し,血液の塊(血腫)が脳細胞を圧迫して壊してしまうことで発症します.突然に頭痛,嘔気,意識障害,運動や感覚の麻痺,言語障害などをきたします.そして血腫が大きくなると脳浮腫も伴って頭蓋内圧が高くなり,脳ヘルニアをきたして脳幹部を障害して死に至ることもあります.この脳ヘルニアですが,ヘルニアとはそもそも組織が圧迫などにより元々ある場所から境界を越えて飛び出すことを言い,脳は頭蓋骨という硬い組織で出来た空間に閉ざされて存在するため,圧がかかると逃げ場として空いている隙間を超えてはみ出すことになります.このためはみ出された側も圧迫されることになり,脳出血により大脳テントといって大脳と脳幹や小脳を水平に仕切っている部分を超えて大脳の側頭葉が下方に向かってはみ出すと中脳などの脳幹を圧迫することになり,眼球運動の障害など脳神経の麻痺や意識障害をきたします.脳出血の原因は約70%が高血圧によると言われており,細い小動脈に血管壊死という動脈硬化性の病変が出来,小動脈瘤を形成し,これが破裂して出血をきたしたり,その他には脳動脈瘤,脳動静脈奇形,腫瘍内出血,脳の外傷,白血病などの血液疾患なども原因となります.高血圧性脳出血は最も頻度が高いのは被殻出血(40%)と視床出血(35%)で,これにより対側の片麻痺や感覚障害をきたします.そして治療ですが,血腫の増大は,発症後,数時間以内に約20%の患者さんに見られますが,だいたい3-6時間で血腫の増大は止まると言われております.血腫の検査としては頭部CTが緊急性の意味からも有用です.一方,脳浮腫は出血後3日目くらいから強くなり,1週間くらいしてピークを迎えます.脳ヘルニアを併発して状態が急変しないように監視することが必要です.このため脳出血の急性期の治療としては,血圧のコントロールと脳浮腫の対策などがあります.血圧はあまり下げすぎても脳血流量が減少して循環が悪くなるため降圧剤投与前の8割程度に血圧を下げるようにしているようです.また血腫を除去する手術をするかどうかですが,出血量が10ml以下と少ない場合や神経症状が軽微な場合,意識障害が極めて重い場合は適応がないとされています.そのほかのけいれん発作,消化管出血,血糖や電解質異常などに対しても必要に応じて治療を行いながらなるべく早期から積極的にリハビリを行うとともに,1-3ヶ月の間に血圧は140/90mmHg以下にするのが良いと言われております.とにかく脳血管障害は早期発見・早期治療が重要ですので少しでもおかしいと思ったらすぐ病院にかかるようにして下さい.
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