自動車運転について

2016.12.04 放送より

 以前に自動車運転のリハビリについて伊月病院の取り組みについてお話ししましたが,今日は来年3月に改正される道路交通法の内容の1部と当院で自動車運転のリハビリに用いているシュミレータで分かってきたことなどについてお話しします.

 まずは来年,平成29年3月12日に施行される予定の道路交通法の改正の要点ですが,準中型免許といってトラックなどを対象に普通免許と中型免許の間のクラスが新設されるほか,75歳以上の高齢運転者への対策が変更になります.このうち特に高齢者の新たな対策は注意を要しますので,本日はこの点について少し詳しくお話ししたいと思います.まず現在は,75歳以上の高齢運転者では運転免許の更新に合わせて3年に1度,認知機能検査を行われ,これによって認知症の恐れのある第1分類,認知機能が低下している恐れのある第2分類.認知機能の低下している恐れのない第3分類に分けられます.そして認知症の恐れのある第1分類の人は信号無視,通行禁止違反,通行区分違反など特定の違反をした場合は医師の診断を受けなければならず,それによって認知症と診断されれば免許の取り消しまたは停止が決まります.また違反がない場合は認知機能の低下の恐れがある第2分類の人やそういった恐れのない第3分類の人と同様に認知機能に応じた講習を受けることになりますが,その時間は一律に2時間半であり,講習が済んだら次の免許更新の3年後までは認知機能検査や医師による診断はありません.これに対して来年3月からの新制度では,認知症の恐れのある第1分類の人は違反の有無にかかわらず臨時適性検査または医師の診断による診断書提出が必要になります.また認知機能の低下している恐れのある第2分類の人は実車指導や個別指導など計3時間のより高度な高齢者講習を受けることになります.さらに認知機能の低下していない第3分類の人も実車指導などで計2時間の高齢者講習を受けることになります.そしてさらに定められた18種類からなる一定の違反を途中で起こした場合には,第1分類の人は臨時適性検査または医師による診断書提出が必要となり,第2分類の人は認知機能検査の結果が前回よりも悪くなっている場合に2時間の臨時高齢者講習を受けるようになります.以上,口頭で説明しただけでは少しややこしいのですが,認知症の恐れがある第1分類の人は,全員,臨時適性検査を受けるか医師による診断書の提出が必要となるほか,一定の違反を起こしたら免許証の有効期間内であっても分類に応じて臨時適性検査,医師による診断,臨時高齢者講習などが必要となります.そしてその臨時認知機能検査の対象となる18種類の違反行為ですが,信号無視,通行禁止違反,通行区分違反,指定横断禁止違反,進路変更禁止違反,踏切での違反,横断歩行者等妨害,徐行場所違反,指定場所一時不停止,合図不履行,安全運転義務違反などいずれも重大な事故につながる恐れのあるようなものばかりです.

 さて伊月病院では,徳島県では車の運転は生活のため無くてならない手段のひとつであること,また人口の高齢化に伴い認知機能の障害の頻度が高まってきていることなどから,認知症の診断と治療に加えて自動車運転に対するリハビリにも力を入れてまいりました.認知症の診断にはMMSE,HDS-R,さらにMOCA-Jと行ったスクリーニング検査やMRIによる画像検査などを行っておりますが.さらに自動車運転に関連するものとしてCDR(clinical Dementia Rating)スコアという記憶,見当識,判断力と問題解決,社会適応,家庭状況および趣味・関心,介護状況などを評価するスケールも調べております.これにより0-3までに分類(0は健康,0.5は認知症の疑い,1は軽度認知症,2は中等度,3は重度認知症)いたします.そして認知症とはっきり診断された方は除いて,健常高齢者および軽度認知障害の恐れのある人などを対象にDTナビとHonda セイフティナビという2つの機器を使用してリハビリを行っております.このうちDTナビではハンドルやアクセル・ブレーキなどの操作に必要な筋力やその操作にかかる反応時間など運転能力に関わる基本的な技能を測定いたします.またセイフティナビは3面からなる画面を用いて実際に車を運転するような操作を行っていただき,発進停止,合図,安全確認,位置(停止位置,走行車線,車間距離など),速度,ヒヤリ・ハットや事故発生の有無などを検定いたします.当院での65歳以上の高齢者を含む健常者やパーキンソン病患者さんなどに行った初回の走行データでは,停止位置の不適,ウインカーの問題,前方の車両,標識や表示などの見落としなどが高頻度にみられるようですが,これらは繰り返し行うことにより改善してゆくものと思われます.

 徳島県においては,自動車運転は日常生活で必要不可欠なことも多いのですが,その一方では事故を起こすと相手にも被害がおよぶケースもあり,大変な事態を招く恐れがあります.現在,認知症のみが絶対的に不適格な疾患となっておりますが,予備軍の人にとってはいつの間にか移行している恐れもありますので普段から注意が必要であると思われます.

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