気象病について
2016.07.17 放送より
関節リウマチの人が関節の痛みがひどくなるので天気が崩れそうとか,気管支喘息の人が発作が起こりそうなので低気圧が近づいているとか言われるのを耳にされた方もおられるかと思いますが,このように天候の変化によって症状が出現したり増悪するような病気をまとめて気象病と呼ばれることがあります.気象病としては,この関節リウマチを代表とする関節痛や気管支喘息のほかにもメニエル病などのめまい症,片頭痛,神経痛,狭心症や心筋梗塞,脳血管障害,うつ病などが有名であり,このように意外に多くて一説には気象病の方は日本に1000万人くらいいるとも言われています.
さてその気象病ですが,その起こるメカニズムについて詳細は不明ですが,いくつかの説が考えられております.気象に関係のあるのは,気温,気圧それに湿度ですが,その中で気圧の変化が最も影響を与えるのでないかと思われます.一般に気象病は天気が悪くなる時に症状が出てくることが多いようですが,天気が悪くなるのは低気圧が近づいてくる時,すなわち気圧は低くなる方向に向かいます.そもそも人間は,地球上で大気(空気の層)の中で暮らしています.空気には当然重さがあります.空気は軽いといっても宇宙までの距離すなわち大気圏の厚さは300から600kmもありますから,その重さは積もり積もって降りかかり,大気圧となって地上の人間の身体には約15トンもの圧力が身体の外側からかかっております.それでも人間が押し潰されてしまわないのは,実は身体の内側からも同じ圧力で空気を押し返しているからなのです.そしてこの外側からの圧力すなわち気圧は天候の変化に伴って変化しますので,私たちの身体はその変化に対応して内側から押し返す力を調節しなければなりません.この気圧の調節を分かりやすく感じることが出来るのは,トンネルの中を通る際に外の気圧の低下について行けなくて耳がキーンとおかしくなるという経験です.このように気圧の身体の内外での調節が出来ないと極論すると気圧に負けて押しつぶされるか,気圧よりも内圧が高くなって逆に膨らんで破裂してしまいます.このような気圧に対する調整を私たちは無意識のうちに絶えず続けているのですが,気圧の変化について行けず微妙なずれを起こすことが気象病で起こる身体の不調の原因の1つになると考えられています.この気圧の変化には気圧が上がっていく場合と下がっていく場合の2つがありますが,気象病で問題になるのは,天気が悪くなる場合,すなわち気圧が下がっていく場合が多いと思います.
それではもう少し具体的に気圧の低下と症状の関係についてお話しします.まず気圧が下がりますと,体にかかる圧力が低下し,血管にかかる圧力も低下いたします.そうすると血液中の水分が細胞内に移行してむくみのような状態となって腫れぼったくなり,そこに痛み物質であるヒスタミンやブラジキニン,炎症物質であるプロスタグランジンなどが産生され,関節リウマチなどの関節痛の悪化や神経痛の発現が起こります.また気圧が下がると気管支にかかる圧力が低下して気管支を押し広げようとする力が低下し気管支の内腔が狭くなり喘息の悪化をきたすことも考えられます.それから頭痛に関しては,急激な気圧の変化によって脳の血管が広がり,周囲の三叉神経を刺激して炎症物質を惹起して片頭痛を誘発することや副鼻腔にかかる圧力が低下ことにより頭痛をきたす可能性も考えられます.また低気圧が近づいて天気が悪くなる場合は気温が下がったり湿度が上がったりいたします.このうち気温の低下により体温を一定に保つためにエネルギーを産生する必要が生じ,そのため交感神経が優位となります.これにより血圧や脈拍は変動して上昇することが多く,狭心症や心筋梗塞,脳出血など重篤な疾患を引き起こしたり,身体の平衡感覚を司っている内耳の血流が低下してめまいをきたすこともあります.このほか気候の変化により自律神経系が乱れて集中力不足や気分の落ち込みから神経症,うつ病,自律神経失調症,更年期障害などが悪化することもあります.
このように自律神経の乱れなどによっても症状が悪化する気象病ですが,それに対応する方法としましては,まず適度な運動やストレッチなどにより身体を動かして身体の血液循環をよくすること,体力をつけることなどが重要です.それから食事や睡眠などを規則正しくとり,生活が乱れないようにすることは自律神経の乱れを少なくすることに有用です.また入浴は心身をリラックスさせるのに効果的だと思います.さらにエアコンは生活を快適にしてくれますが,その使いすぎは冷暖房の効いていない部屋との温度差からかえって自律神経の乱れをきたすことにつながりますので,使いすぎには注意が必要です.このほか身体をむくみにくくするため,塩分や水分の取り過ぎや身体をあまりきつく締めつけるような衣服の着用は避けた方が良いと思います.
以上,いろいろと述べてまいりましたが,その他にも私が普段よく診療しているパーキンソン病の方でもよく天気が悪いと調子が悪いと言われることがあり,これまでお話してきた以上にいろいろな病気が天候に左右されるものと思います.
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