アルツハイマー病について
2011.08.21 放送より
以前に認知症についていろいろとお話しいたしましたが,認知症の中でもアルツハイマー病は最も多くその50-60%を占めており,また今年に入っていろいろと新しい薬が出て話題となっております.今日はそのアルツハイマー病について取り上げてみたいと思いますが,その前にまずは認知症について簡単にご説明いたします.
認知症は「いったん発達していた知能が,何らかの後天的な疾患により全般的かつ持続的に低下して日常生活に支障をきたしている状態」と定義されております.その症状にはすべての方に見られる中核症状と必ずしも見られるわけではない周辺症状があります.このうち中核症状は,記憶障害,見当識障害,判断力の障害,問題解決能力の障害,実行機能障害,失語・失行・失認などの高次機能障害などであり,周辺症状にはせん妄,幻覚,妄想,不安,焦燥,抑うつなどの精神症状や暴言・暴力,介護への抵抗,徘徊,過食・異食,不潔行為などの問題行動などがあります.周辺症状にはその人個人の体調や性格,薬,周囲の環境などいろいろな内因や外因に影響されて生じてきます.
アルツハイマー病は,1901年にドイツのアルツハイマーによって報告された疾患ですが,最初の例は46歳女性でした.それで当初はアルツハイマー病といえば若年性の認知症をきたす疾患で,60歳以上の高齢者で発症するものはアルツハイマー型老年認知症として区別されておりましたが,加齢とともに指数関数的に発生頻度が増え,人口の高齢化とともに社会問題となるほど増えてきていることから,あまり区別されなくなっております.
その症状は進行性の記憶障害に始まり,見当識障害,理解力や問題解決能力の障害などに加えて空間認知機能の障害などがみられます.初期には記憶障害が目立ちますが,記憶の中でも特に最近の記憶が障害されやすく,通常の物忘れでは,物事の1部分を忘れるのにとどまるのに対してアルツハイマー病の記憶障害はその物事自体をごっそり全て忘れるというふうに量的にも質的にもより重いものです.そして日付や場所,さらには季節まで分からなくなるようになります(第1期).
それからさらに進行しますと空間認知機能の障害として位置関係や立体的な認識が出来なくなってきます.このため外出すると家に帰れなくなったりすることも出てきます.また感情も不安定になり,せん妄や妄想,暴言・暴力,介護への暴力など周辺症状が見られるようになってきます.また逆に周囲に対して興味が無くなり無関心となることもあります(第2期).そしてもっと進行いたしますと歩行障害など運動障害が見られるようになり,寝たきり状態となってさらに意識レベルまで下がるようになります(第3期).
この病気はこれからの社会の大きな問題となりますから,数多くの研究者によって原因の究明が進められております.その病因として現時点で最も確からしいのは,βアミロイド蛋白沈着説です.これは,アルツハイマー病の脳を調べてみると老人斑という特徴のある病理変化があり,その構成成分がβアミロイド蛋白の凝集したものであるからです.
βアミロイド蛋白はアミロイド前駆体蛋白からβセクレターゼやγセクレターゼといった酵素により切断されて産生されますが,これが何らかの原因で変異してより凝集しやすいAβ42という蛋白に変わりますと分解されにくくなって神経細胞内に蓄積してゆき,神経細胞死をきたしてゆくというものです.このためこのアミロイドを作る酵素の阻害剤や出来上がったアミロイド蛋白を分解するためのワクチンなどが,将来,病気の発症や進行を抑える根治的な治療法となるのではと期待されています.
しかし現時点で使用可能な薬剤は,いずれも対症療法にしかなりません.それでもこれまで1種類だけしかなかったものが,今年の3月から7月にかけて新たに3種類発売されましたので,それらの中から合うものを選択したり組み合わせたり出来るようになりました.それらについて簡単にお話ししますと,1番始めに発売されたドネペジルという薬は,アルツハイマー病の脳内で減少しているアセチルコリン(ACh)の分解を阻害することによって増やして症状を改善するAChエステラーゼ阻害剤に属します.この仲間に属しているものにこの度のガランタミンとリバスチグミンがあります.
ガランタミンはAChの増加だけでなく他の神経伝達物質にも影響を与えると言われております.またリバスチグミンはブチリルコリンエステラーゼという酵素も阻害して,よりAChの濃度を高めるほか剤型がパッチである点でも注目されております.それからもう1つのメマンチンは,グルタミン酸による過剰な興奮を抑えて神経細胞死を遅らすことが出来るのではないかと考えられており,残り3種のACh阻害剤と併用が可能であります.
以上,簡単にアルツハイマー病についてお話ししましたが,少しでもおかしいと思われたら出来るだけ早く神経内科などに受診されることをお勧めいたします.
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