肩の痛みについて

2011.05.29 放送より

 本日は前回の腰痛に引き続いて一般的な症状で多くの人が経験する肩の痛みについて,私も経験したことのある五十肩を中心にお話しいたします.

 そもそも人間では,肩関節は股関節と大きく異なっております.それは人間が2足歩行をするようになったため,肩を大きく動かせるように進化してきたからです.すなわち股関節は体重を支える必要があるため強固に出来ており,関節の可動域はあまり大きくありません.

これ対して肩関節は,腕が自由に動くよう可動域を大きくするように出来ております.肩の関節は肩甲上腕関節・胸鎖関節・肩鎖関節から構成されておりますが,このうち上腕骨と肩甲骨がつながってできている肩甲上腕関節では,腕の付け根側の上腕骨頭という部分が球状の凸の形をしており,肩甲骨側が凹の形をして受け皿になっております.この受け皿が小さいために可動域が広くなっているのですが,それではすぐ脱臼してしまうので,三角筋・棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋・大胸筋などの筋肉や鎖骨,関節唇,関節包などといった組織によって補強されています.

特に肩甲骨から出て上腕骨につく肩甲下筋,棘上筋,棘下筋,小円筋などの筋肉は上腕骨の頭部を帽子のように包み込んで腱板という特殊な構造を形成しており,肩の脱臼を防ぐとともに肩を挙上させる時のテコの支点の役目をしております.

 さてそれでは,肩の痛みをきたす疾患についてお話しいたします.まずは一般的によく言われている五十肩(あるいは四十肩)ですが,これは実は1つの疾患ではありません.肩関節周囲炎や癒着性関節包炎などいろいろな病態が含まれております.普段あまり運動していない人や長時間同じ姿勢で働いている人に発症しやすく,中年期以降に目立った外傷歴もなく肩に疼痛と関節の可動域制限をきたすというのが定義であります.発症初期には肩の違和感,肩から腕にかけて放散する自発痛や運動痛などが起こり,約2ヶ月の間,結構激しい痛みが続いて痛みのため肩を上げられないことや夜間や明け方に痛みのため眠れないこともあります.

この痛みはその後次第にやわらぎますが,鈍い痛みは結構長い間続き,痛みのために肩をあまり動かさないでいると肩を支えているいろいろな筋肉が拘縮して肩関節に運動制限が見られるようになります.その後,約1年で半数の人が,2年で3/4の人が,自然に痛みが無くなり肩関節の可動域も改善(1部には制限が残る)するといわれています.

この疾患の原因ですが,詳しくはよく分かってないのですが,加齢性の変化によって軟骨,靱帯,滑液包,腱板といった関節およびそれを支える組織の柔軟性が損なわれ,炎症をきたすと考えられています.運動不足などにより肩の筋肉が痩せてくると腱板も痛みやすくなるかと思われます.

それから治療ですが,これは痛みが主体の急性期(=疼痛期)と運動制限が問題になる慢性期(=拘縮期)に分けて行います.まず疼痛期ですが,この時期は局所の安静が一番です.特にはじめの数日は肩を冷やしますが,その後は冷やすとかえって痛みが増強しますので,温湿布,ホットパック,入浴などで肩を温めるようにします.入浴は寝る前にするのが効果的であり,また睡眠中に寝返りなどで痛くなるような場合は,柔らかい枕やクッションなどを脇の下に入れるなどして肩が痛くならないような工夫をすることも有効です.それでも痛みが強い時には,薬物療法として消炎鎮痛剤,筋弛緩剤,精神安定剤などの内服や肩甲上神経ブロックという神経ブロックを行うこともあります.

それから次に拘縮期の治療ですが,この時期に痛がって肩を動かさないでいると関節が拘縮するだけでなく筋肉も萎縮して可動域の制限が強くなってしまいます.これらを防ぐために先ほどの温熱療法や薬物療法に加えてなるべく早期から運動療法を行います.運動療法としては,肩を少しずつ前方や側方に挙上させて可動域を広げる運動や身体を90度くらい前屈みにして1kgくらいの重りを持って前後左右に腕を振り子のように振る運動などがあり,肩を温めながらするとより効果的です.またリハビリでマッサージやストレッチなどもしてもらうとよいと思います.

 五十肩以外では,以前に五十肩に含まれていた石灰沈着性腱板炎や腱板断裂があります.石灰沈着性腱板炎は40-50歳代の女性に多く,腱板内に沈着したリン酸カルシウムの結晶による急性炎症のため夜間に突然肩が痛くなって動かせなくなります.また腱板断裂は50歳以上の男性に起こり,夜間に突然生じる激しい痛みではじまることが多く,肩の運動障害や運動痛などをきたしますが,五十肩との違いは拘縮を起こしにくい点です.また二の腕の使いすぎで起こる上腕二頭筋腱炎などもあります.

 勿論それ以外にも変形性頚椎症や頸椎ヘルニアなど首の病気もありますし,内臓疾患でも肺癌や狭心症さらにはうつ病などでも肩の痛みを呈することがありますので,治りにくい時は早めに診察されることをお勧めいたします.

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