感覚とその障害について
2010.08.29 放送より
前回の私の放送では,筋肉の痩せるいろいろな疾患とその代表として運動神経に異常が起こるALSという病気についてお話しいたしましたので,今回は感覚とその障害についてお話しいたします.
そもそも感覚というのは,外からのいろいろ刺激(痛い,熱い,冷たいなど,あるいは音,光,臭いなど)を体の特定の器官が感じとって認識することです.そして感覚の種類には体性感覚,内臓感覚,特殊感覚の3つがあります.このうち体性感覚は,皮膚や粘膜の表面に刺激の種類に応じた様々な感覚受容器があり,それによってそれぞれの刺激が感じられており,温痛覚,触覚,圧覚などの表在感覚と振動覚,関節位置覚といった深部感覚があります.
それから内臓感覚には,空腹感,のどの渇き,吐き気,動悸,内臓痛などの感覚があり,自律神経によって伝えられているものであります.また特殊感覚には,視覚(目で見る),聴覚(耳で聞く),味覚,嗅覚,前庭感覚(平衡感覚)があります.本日は,これらの中で感覚といわれて最もイメージがわくのは温痛覚ですので,体性感覚についてお話ししてゆきます.
体性感覚には表在感覚と深部感覚があるとお話しいたしましたが,実はこの2つは皮膚の表面から脊髄を通って脳へと伝わっていくですが,その途中の経路が違います.すなわち2つとも皮膚の受容器から脊髄の後根神経節を経て,脊髄の後ろ側から脊髄に入ります.ここまで共通ですが,その後,温痛覚ではすぐ脊髄を横切って反対側へ移り,脊髄の前の方を上行し,延髄から感覚の中継所である視床を経て大脳の頭頂葉にある感覚野(ここが大脳に置ける感覚中枢)という部分に終わります.視床に到達して大ざっぱな痛みや熱い冷たいという感覚となり,感覚野にいたって初めて体のどの部分がどのように痛むのか具体的に知ることが(知覚)できます.
これに対して深部感覚は脊髄の後ろ側から脊髄に入ったままそのまま後索という部分を同側性に上行し,延髄で反対側に移った後,視床を経て同じく大脳の感覚野に終わります.結局は,2つの感覚とも脳は体の反対側の感覚を支配しているという点では同じですが,この途中経路の違いを利用して神経内科の診察では障害されている部位が脳の下部か脊髄か,あるいは脊髄での障害が前側か後ろ側であるかなどを知ることが出来ます.またこれらの感覚を伝える末梢神経すなわち感覚神経は,伝える刺激によってそれぞれ神経線維の太さが決まっております.すなわちより原始的な感覚である温痛覚ではAδ線維という直径3μm位の細い線維を伝わり,刺激を伝える速度も15m/秒とゆっくりしているのに対して,より高等な深部感覚ではⅠa線維という直径15μm位の太い線維が刺激を伝えており,速度も100m/秒と速くなっております.
さてそれでは,感覚障害について部位別に説明してみたいと思います.まず始めに大脳ですが,感覚野や感覚を伝える神経線維が,脳梗塞などで障害されるとその反対側の半身の感覚が顔面も含めて表在感覚も深部感覚もともに障害されます.一方,脳の中でも大脳の下の方にある視床では視床痛といって激しい痛みを対側に伴うことが知られております.そしてさらにその下にある延髄など脳幹では先に述べましたように表在感覚と深部感覚で経路が異なっておりますので,障害された部位によって左右が逆になったり,表在感覚だけが障害され深部感覚が残ったり,あるいはその逆が起こったりと感覚の解離が起こることがあります.例えば左の延髄で障害が起こりますと,温痛覚は既に脊髄で左右交叉しているため反対側の右側が障害されるのに対して,振動覚では交叉前ということで同側すなわち左側が障害されることになります.このような感覚の解離は脊髄においても見られることになります.
次に脊髄ですが,外傷,椎間板ヘルニアや腫瘍などの圧迫性病変に加えて多発性硬化症などの自己免疫性神経難病などでも感覚障害が起こります.その障害は,半側性の障害では表在覚と深部感覚の感覚解離がみられますが,加えて病変のある部位以下のレベルに障害がみられることが特徴であります.このレベルというのは,人間も元々は四つ足動物であり,頭から胴にかけて四つん這いになった際,頸椎から胸・腰椎にかけて脊髄神経が地面向かって垂直にのびてゆき,シマウマの縞のような縞模様(=デルマトーム)が出来,この模様に沿ったパターンで障害が見られるようになるわけです.
そして末梢神経である感覚神経での障害がですが,これには圧迫,代謝障害,自己免疫性血管炎,中毒と様々な原因で起こります.障害には単一の神経の障害(=単神経障害)と手袋靴下型の感覚障害が見られる多発神経障害があります.
本日は図でお示しできないため非常に分かりにくかったと思いますが,感覚障害は一見すると複雑でなかなか人には分かってもらいにくいものですが,神経学的な診察により障害されたパターンを調べることによって,その障害部位を特定できますので,ぜひ神経内科を受診されるようお勧めいたします.
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