頭痛について:その1 緊張型頭痛
2010.01.24 放送より
これまで神経内科で取り扱う疾患のうちアルツハイマー病やパーキンソン病といった神経難病,すなわち原因も不明で治らない疾患についてお話してきましたが,今回はもっと一般的で身近な疾患として頭痛について取り上げてみたいと思います.頭痛は恐らく最も多い症状の1つであり,軽いものもいれればほとんどすべての方が経験されたことがあると思います.それでよほどひどいものでなければ,せいぜい市販薬くらいで済ませて病院までは受診されないことと思います.実際,頭痛のうち95%までは頭の中に器質的な原因が見つからないものであり,例えば救急病院などを受診されたとしても心配ないといわれます.そしてそのような頭痛(1次性頭痛)の代表が,緊張型頭痛です.
緊張型頭痛は頭痛の中で7~8割を占め,日本中で約2200万人(15歳以上の国民のじつに22%に当たります)の方が罹患されているといわれております.また中高年に多く,女性にも男性にもみられます.その症状は,後頭部から首筋にかけての圧迫感,頭重感であり,それがいつとはなしに始まり,だらだらと持続します.頭痛の部位は両側性のことが多く,頭全体におよぶこともあります.ちょうど「鉢巻きをしているようだ」とか「頭に重い石をのせられているようだ」とか表現されるようです.発作の頻度はさまざまで,月に数回程度から毎日続くこともあります.そして肩こりを伴うことが多いほか,眼の疲れやふらつき,さらに体のだるさなども伴うことがあり,すっきりしないことが多いようです.また午前中よりも夕方の方が悪くなることが多いといわれております.
病因としては,頭や首のまわりの筋肉の張りや凝りが考えられており,肉体的な疲労や精神的な緊張などによるストレスが関与していると思われます.すなわち,ストレスにより頭や首のまわりの筋肉が緊張しすぎますと筋肉の中の血液の流れが悪くなり乳酸などの老廃物がたまります.老廃物がたまると筋肉が凝ってきて痛みを伴うようになります.頭痛が起こるとそれがさらにストレスとなって悪循環が起こり,頭痛はひどくなってゆきます.ストレスのうち身体的なストレスとしては,姿勢の異常などによる首や頭のまわりの筋肉の過剰な緊張などがあげられます.具体的には,1日中コンピュータにむかっていることや寝る際に枕が高すぎることなどがあげられます.また精神的なものには,仕事における緊張や不安,抑うつなどが長時間にわたることなどがあげられます.そのほかにも首の骨や軟骨の異常,首の筋肉の筋力低下,顎関節症などの病気,さらに貧血や低血圧も筋肉の血流低下をきたしやすく緊張型頭痛の原因になっていることがあります.また頭痛薬の乱用も頭痛を悪化させていることがあり注意が必要です.
つぎに,治療について述べますが,これには薬物療法とマッサージがあります.内服薬としては筋弛緩剤といって筋肉の凝りをほぐす薬とアスピリン,アセトアミノフェンといった昔からある解熱鎮痛剤に加えて,種々の非ステロイド系消炎鎮痛剤があります.しかしこれらに余りに頼っていますと痛みの閾値が下がって痛みに過敏となり,かえって頭痛を起こしやすくなったり,痛みを恐れるあまり薬をやめられなくなることがあります.このような状態を慢性連日性頭痛といって,治療に抵抗性で頭痛が止まらなくなってしまう危険性があります.こうならないようするためには,薬の内服はほどほどにしなければなりません.
一方,局所の塗り薬,貼り薬,入浴やマッサージなども効果があります.首,肩,背中などの筋肉に温湿布や暖めたタオルを当てたり,入浴時にシャワーで後頭部から首筋にかけて打たせ湯をしたりすることなどは,凝った筋肉をマッサージすることと並んで物理的な刺激により筋肉内の血流量を増加させ,痛みの原因となっている老廃物を取り除くことに役立ちます.それから予防法も有用です.あまり根を詰めないようにすること,適度に休憩をいれること,スポーツやカラオケなどレクリエーションにより気分転換をはかることが重要です.また軽い抗うつ薬や抗不安薬などの内服も効果があることもあります.さらにアルコールも少量であればストレスの解消と筋肉の血流の改善により効果があることもあります.それから前かがみのうつむき姿勢など同じ姿勢を取り続けないこと,首・肩・頭を回したり曲げたり伸ばしたりするストレッチ運動などを取り入れることなどが勧められます.また朝起きたときに頭痛のあるような方の場合,枕の高さや硬さなどをチェックしてみることも必要です.高すぎる枕は頚椎や後頚筋に負担をかけますので,出来ればはずすか低いものに変えてください.
緊張型頭痛は生活習慣病の1種とも言え,しかもその頻度は糖尿病よりもはるかに多いものです.出来る範囲で規則正しい生活を送るなどきちんとした健康管理を行うことも大切です.また自分なりにリラックスしてストレスを避け,適度な運動を取り入れ,無理をしないで生活するよう心掛けてください.
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