パーキンソン病について①

2009.11.29 放送より

 今回は私の専門の神経難病の中でも最も有名な疾患の1つであるパーキンソン病を取り上げてみたいと思います.そもそもこの病気は1817年に英国のパーキンソン医師が,振戦麻痺という名前で発表されました.振戦とはふるえのことであり,麻痺は手足が動けなくなることです.つまりふるえながら動けなくなるという一見相反するような症状を併せ持った不思議な病気が存在することを報告されたのです.この病気は60歳代での発症が多く,また長生きが出来て,高齢者ほど有病率が高い病気でありますから,近年,特に一般的となってきました.今では人口10万人当たり約120人といいますから,全国で少なくとも15万人くらいの患者さんがおられるはずで,2035年には今の2倍になるとも言われています.そしてその症状としては,皆様がもっともご存じと思われる振戦(それも安静時の振戦であり,初発症状として約2/3に見られる)に加えて,筋強剛・無動といったものがあり,これをパーキンソン病の3大主徴といいます.これらによって仮面様顔貌,身体の硬さ,見かけ上の筋力低下,小声,小字症,起立・歩行障害などが見られます.ただし,有名な振戦は経過中すべての方に見られるわけではなく,10%の方では見られず,3大徴候がすべてそろうわけではありません.それらに加えて病気の進行とともにみられるようになる姿勢反射障害という症状があり,合わせて4大主徴と呼ぶのですが,この遅れて加わる姿勢反射障害は薬が効きにくく,すくみや易転倒性を引き起こし,治療に難渋してADLの低下につながります.そのためパーキンソン病はこの姿勢保持障害まで見られるようになったら特定疾患として認められるようになります.

 以上,パーキンソン病の主要な症状をお話ししましたが,これらはいずれも運動症状と呼ばれるものです.すなわちパーキンソン病はその障害される主な部位が大脳の奥深いところにある中脳の黒質という部分であり,これが錐体外路という神経系に属していますので,専門的には錐体外路疾患の代表とされておりました.ところがこれまたとても頻度の高い症状に便秘(これも80%以上に見られます)があり,頻尿や起立性低血圧などとともに自律神経障害に分類されます.さらにまたこのところ特に問題になってきましたのは,精神症状であります.すなわち実際には見えないはずの物が具体的に見えてしまう幻視に代表される幻覚やそれに付随した妄想,さらには抑うつ状態や認知症などであります.このうち抑うつ状態は,パーキンソン病でも約40%に見られるとも言われております.これは精神科などで治療されている一般的な躁うつ病とは少し違っており,より軽度であり,躁状態になることや自殺したいと思うようなことはほとんどないようです.

 一方,認知症の方は,今から10年前にはパーキンソン病は認知症にはならないと言われておりましたから,随分と様相が変わってまいりました.すなわち,年に7%くらいの割で合併してゆき,80歳以上の方では軽度なものも入れるとかなりの率で見られるようです.その特徴は,認知症の代表であるアルツハイマー病とは違っており,物忘れは年齢相応であり,病識もあるようです.その代わりとして目立つのは前頭葉機能の障害であり,これにより理解力,判断力,問題解決力などの低下をきたします.すなわちこれまで簡単に出来ていた作業や仕事などに時間がかかるようになったり,出来なくなったりします.また2つのことを同時にすることも出来なくなってまいります.身体だけでなく頭も硬くなるわけです.このことはご本人にとってもショックであり,ますます気が滅入りますし,またそのことが運動症状などにも悪影響を与えるようです.この認知症状には,パーキンソン病の治療薬として最も有効なL-ドーパも有効ではありませんので,これこそが今後の治療の焦点になるかもしれません.

 それからさらにその他の症状としてごく最近注目されてきたものに易疲労性,痛みや痺れなどの感覚異常,嗅覚の低下,REM睡眠行動異常症などがあります.このうち易疲労性はパーキンソンの病因の1つにミトコンドリアの異常が考えられており,エネルギー産生機能の異常の面から注目されております.また嗅覚の低下やREM睡眠行動異常(これは夢見の睡眠であるREM睡眠の時に通常は動かないはずの身体が,反応して夢を見る通りに動いてしまう)などは,その病変部位が黒質のある中脳よりさらに下部の脳幹にあり,しかもパーキンソン病の運動症状の発現前から見られているとの報告があり,パーキンソン病の発症前症状の可能性が考えられております.すなわち将来,パーキンソン病の進行を抑止できるような薬剤が見つかれば,このような症状のある方に早期から使用することによりパーキンソン病の発症を予防できる可能性が考えられております.

 以上,今日は,パーキンソン病の概念が最近大きく変わりつつあり,単なる運動障害だけではなく,精神障害,自律神経障害,さらには痛みなど感覚障害まであって全身性の疾患であるということをお話させていただきました.

 

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