78歳女性に見られた立ちくらみ(起立性低血圧)について
2006.08.06 放送より
少し前になりますが、一過性意識消失発作いわゆる失神についてお話しいたしましたが、それに関して徳島市にお住まいの78歳の女性よりお便りをいただきました。
この方は、もともと低血圧だそうですが、この夏の暑さのせいか朝だけでなく昼からも急に立ち上がったり動いたりすると頭がボーっとしていわゆる脳貧血のような症状が出るとのことです。それでどうしたらよいのかというお問い合わせです。
この方の場合はいわゆる立ちくらみの症状と思われますので、今日は起立性低血圧についてお話しします。
そもそも人が急に起きたり立ち上がったりする際、重力によって約500mlの血液が足や下半身の静脈に溜まるといわれております。この結果、まず心臓に戻る血液が減少し、さらには心臓から全身へと送り出す血液の量も減少し血圧は必然的に下がろうとします。これに対して脳などの大事な部分の血流を確保しようと心臓はより力強くかつ数多く収縮したりして心拍出量を増やしたり、細動脈は収縮して血圧を上げようとするなどの生理的な反応がみられます。
このようにして通常は体位を急に変えても血圧は余り変動しないように代償されるのですが、高齢者や自律神経の調子の悪い人などを中心にこの代償機構が障害されて起立性低血圧が起こります。起立性低血圧は、寝た状態の血圧から座位あるいは立位となり、3分以内に測った血圧が前値に比べ収縮期血圧で20mmHg以上、拡張期血圧で10mmHg以上低下するものと定義されています。そしてさらに拡張期で30mmHg以上下がって脳に血液が充分にゆかなくなるとこの前お話しした失神が起こるといわれております。
それでは起立性低血圧はどのような疾患でみられるのかお話しいたします。この前の失神と同じように種々な疾患でみられるため分類があり、まず大きく1次性と2次性に分けられます。1次性のものは自律神経そのものが障害されるような神経疾患で、これにはShy・Drager症候群に代表される多系統萎縮症やパーキンソン病などの神経変性疾患のほか自律神経だけが進行性に障害されてゆくまれな疾患である純粋自律神経機能不全というものもあります。
このうち既にお話ししたことがあり、私のところにかかられている患者さんがおられる多系統萎縮症やパーキンソン病では、交感神経も副交感神経も両方障害されますが、交換神経障害により起立性低血圧をきたすほか発汗障害も認められます。またこれらの疾患では普段から下肢に血液が溜まりやすいため足の浮腫も合併していることが多いように思います。さらにこれらでは副交感神経の障害により排尿障害や頑固な便秘など膀胱直腸障害も同時にみられることが特徴です。
次に2次性のものですが、これには加齢によるもの、もともと血圧の低い方にほかの因子が加わって起こるもの、内分泌や代謝性疾患などの内科疾患に合併したもの、それに薬剤の副作用によるものなどがあります。これらの中でまず高齢者は脱水になりやすく夏場は要注意です。夜間のトイレなどの際は特に要注意ですし、下痢などにも気をつけて下さい。
同じく低血圧の方も夏場は元々血圧が下がりやすいため症状が出やすいと思われます。それから食後は副交感神経が緊張し、血圧を上げる交感神経が相対的に機能低下をきたすことや胃や腸など消化管に血液が集まって循環血液量も下がるため起立性低血圧がより起こりやすい状態にあるといえます。
次に内科疾患の中で起立性低血圧を合併しやすい病気ですが、これは何といっても糖尿病で、2次性のものの50%を占めるといわれています。その他の代謝障害では、ビタミンB欠乏症、アルコール中毒、アミロイドーシスや腎不全などが知られております。また内分泌疾患としては、副腎や甲状腺のホルモンの分泌が低下する疾患では血圧が下がりやすくなります。それから貧血が基礎にありますと脳に酸素を充分供給出来ずに立ちくらみを起こしやすくなります。
貧血の原因としては、鉄欠乏性のものが多いですが、関節リウマチなど慢性炎症性疾患でも鉄の利用障害により貧血が起こるので要注意です。さらに低血圧を起こす循環器疾患として心臓弁膜症や心筋症などもあります。それから起立性低血圧をひきおこす薬剤としては、利尿剤、β遮断剤、α遮断剤、アンギオテンシン変換酵素阻害剤などの降圧剤、狭心症などで使用する亜硝酸製剤、抗うつ薬や安定剤(睡眠薬)、精神科で使われるような向精神薬などがあり、その病気自体が起立性低血圧を起こすことのあるパーキンソン病に対する薬でもさらに血圧が下がることがあります。
今回ご質問された方の場合、低血圧があり、しかも高齢ということで元々立ちくらみを起こしやすい状況にあったものと思われ、これにさらに夏場の暑さによる血管拡張、脱水それに体力の低下などが加わって起立性低血圧を起こしてたものと思われます。恐らく何も基礎疾患はないものと思いますが、念のため貧血や内分泌・代謝異常など内科的疾患を除外するため、この際1度内科を受診されるますよう宜しくお願いいたします。
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