78歳の方に見られた夜間頻尿について
2005.09.21 放送より
徳島市に住む78歳の男性の方よりお葉書をいただきました。
それによりますと夜中のトイレは以前なら1晩にせいぜい1回であったものが、最近は足腰も弱ってきたのに3回も4回も行くようになったため夜間のトイレが辛いとのことです。そしてどの様な病気が考えられるかというご質問です。実は以前にも54歳の男性から同じようなご質問の葉書をいただいたことがあります。その方は太り気味になってきたとの事でしたから糖尿病やうっ血性心不全などが考えられるとお話しいたしました。今回も同じようにいろいろ考えられますので順番にお話ししてゆきたいと思います。
今回の方の場合、最初に頭に入れて置かなければならないことは、年齢です。前回の54歳に比べて78歳と高齢であり、加齢性の変化として腎機能の低下と前立腺の肥大が考えられます。
腎機能は加齢と共に低下してゆき、例えばお薬を体外に排出する能力は85歳の人では35歳の人の約半分といわれています。これは歳を取るにつれて尿を濾過している腎臓の糸球体と呼ばれている部分の血管(=輸入細動脈)が動脈硬化などにより狭くなったりふさがったりして腎臓の血液濾過率が下がってくるためです。
さらにまた尿を濃縮する力も落ちてきます。こうなると濃い尿が出せなくなるので薄い尿をたくさん出して老廃物や毒物を体外に出してやる必要が出てきます。また膀胱容量の減少や尿意を感じた際の尿意を我慢する力も低下してきます。さらに腎臓と関係はありませんが加齢と共に睡眠時間も減少してきますので、高齢となると別に病気でなくとも生理的に夜間頻尿になってくると思います。だからといって夜のトイレの回数を減らすために水分をひかえることは、血液の濃縮化などにより脳梗塞などをまねいたり、脱水から腎機能の更なる悪化を引き起こす恐れもありますのでご注意下さい。また有名な前立腺は、男性の膀胱の直下で尿道を取り巻くように存在しております。
通常は胡桃大(20g)位の大きさです。前立腺は前立腺液を分泌し、これにより精子に栄養を与えて精子の活動を盛んにさせます。そして前立腺は50歳を過ぎる頃から肥大し始め、60歳を過ぎると約半数の方に夜間頻尿と放尿力の低下をきたします。そして80歳までには実に80%の方に肥大がみられるといわれております。前立腺肥大は進行しますと残尿が増えたり、尿閉をきたすこともあり、治療が必要となってきます。また前立腺癌も合併することがありますのでやはり1度泌尿器科を受診されたほうが良いかと思います。
次に考えられますのは、やはり糖尿病の初期や潜在性の心不全などです。糖尿病は、読んで字のごとく尿にブドウ糖を混じる病気です。一般に腎臓などに問題がない場合、血糖が180mg/dlという値(閾値)を越えますと、ブドウ糖が尿中にあふれ出すようになります。この時、尿が非常に濃くなってしまうのでブドウ糖は水分を引き連れて尿に出てゆきます。その結果、尿量が増えるというわけです(=浸透利尿)。病初期には空腹時の血糖はそれほど高くなくとも食後にインスリンの分泌が追いつかず高血糖をきたすことがあります(=食後過血糖)。特に日本人は夕食にごちそうを食べて寝る傾向がありますので、夜間に異常に喉が渇いているとか、食べ過ぎで最近体重が増え気味であれば糖尿病も考えてみてください。
それから心不全についてですが、これはこの前もお話しいたしましたが、心臓の弱っている状態の総称です。これには大きく分けて左心不全と右心不全の2つがあります。このうち左心不全というのは、左心房や左心室という心臓の左側の部分の機能が低下し、血圧が下がってショックになったり、肺うっ血や肺水腫という状態になって肺に血液が溜まり、咳や痰が出て呼吸困難をきたします。ひどくなりますと寝ていられなくなり起坐呼吸がみられます。これに対して右心不全は、右心房や右心室という右側の心臓の機能障害により血液が心臓に帰ってこられず全身に溜まって浮腫(むくみ)をきたします。
人間は通常、日中は立ったり座ったりと起きて生活するものですから、重力のため余分な水分は下へ下へと下がってゆきます。その結果、腸管に血液がたまり張ってしまい腹部膨満感や食欲低下を引き起こしたり、足に水分がたまり夕方が来ると足が大きくなり靴がきつくなったり、すねや足の甲を押すと引っ込み痕がつくようになります。この場合、夜になって床にはいると、溜まっていた血液や水分が重力から解放されて、腎臓に流れるようになり尿を作る素となり、夜間頻尿の原因となるわけです。浮腫と体重増加は区別が付きにくい時もありますが、急激な体重変動は浮腫の可能性がありますから注意をしてください。もし夕方、脛を押してみて痕が残るようなら心不全も考えられると思います。
このほか、私の専門分野である神経内科の分野でも高齢者に多いパーキンソン病では膀胱容量が減少して夜間の頻尿がみられます。ご参考になったかどうか分かりませんが、以上のように加齢に伴う生理的なものから放置しておくと重大な病気になりかねないものまでいろいろありますのでありますのでまずは1度内科にでも受診していただきますようお願いいたします。
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