臭いと味が分からない
2004.02.10 放送より
お手紙拝見いたしました.この方は、66歳の女性で3年前から唾液が少なくなり臭いと味が分からなくなったとのことで耳鼻科の先生から鼻はきれいであり臭いは戻らないだろうといわれたこと、そして味の方は亜鉛が不足しているといわれ亜鉛のカプセルをのんで味の方は大分よくなったとのことです.しかし現在も臭いの感覚はよくならないのでどうにかならないかというご質問です.この方の症状には、臭いが分からない、味が分からない、唾液が出にくい、という3つがあります.この3つの症状はお互いに関連しているのですが、これらに関係のある神経は、臭いは嗅神経、味と唾液は中間神経という顔面神経の一部および舌咽神経です.そしてそれぞれに関係する末端の部分は、臭いは鼻粘膜の嗅上皮、味は下の味蕾、唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺などの唾液腺ということになります.たくさんあって複雑で分かりづらいので1つずつ説明してゆき後でまとめてみたいと思います.
まず臭いの感覚すなわち嗅覚ですが、これは1番目の脳神経である嗅神経が大脳からのびてきて鼻腔の一番奥のてっぺんにある嗅上皮という部分に終わっており、そこに臭いの分子がくっついて臭いが伝わってゆきます.臭いの障害は、1)呼吸性嗅覚障害:これは鼻がつまるなどして臭いの分子が嗅上皮まで伝わらない状態で、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、鼻中隔弯曲症などによって起こります、2)末梢神経性嗅覚障害:嗅上皮にある嗅細胞の障害によるもので、風邪のウイルスやインフルエンザなど急性のウイルス感染、慢性副鼻腔炎、有害物質の吸入、点鼻薬の使いすぎ、外傷、加齢などによって起こります、3)混合性嗅覚障害:呼吸性と末梢神経性の嗅覚障害が合併したものです、4)中枢性嗅覚障害:嗅神経が脳の中に入ってから以降の障害で起こるもので、頭部外傷、脳腫瘍、脳血管障害、開頭手術、脳内の感染症や炎症、発育障害、神経変性疾患、加齢などで起こります、など以上の4つに大別されます.
この方の場合、鼻には異常がないと耳鼻科の先生に言われたそうですので、末梢神経性あるいは中枢性嗅覚障害の可能性が考えられます.このことを確かめるためには、アリナミンのようなニンニク臭のするものを静脈注射してみてニンニクの臭いを感じることができるか試してみるとよいと思います.
次に味を感じることすなわち味覚についてですが、そもそも味は味物質が舌にある味を感じる器官である味蕾に入り味細胞を刺激し、その刺激が舌の前2/3は顔面神経を、後ろ1/3は舌咽神経を通って大脳の味覚野という部分まで伝わって感じられます.味覚障害には、1)伝導性味覚障害:味物質が味細胞に到達しないために起こります、2)感覚性味覚障害:味蕾にある味細胞自体に異常が生じて起こります、3)神経性味覚障害:味細胞以降の神経の伝導路の障害で起こります、などがあります.
伝導性味覚障害には口腔内の乾燥をきたすような全身性疾患(シェーグレン症候群、糖尿病、腎不全、肝不全、胃腸疾患、甲状腺疾患、ビタミンA、B6欠乏症、鉄欠乏性貧血、それに疾患ではないですが加齢)、口腔内疾患(舌炎など口の中の炎症、義歯の不具合など)、頭頚部の腫瘍に対する放射線療法、口を渇かせるような薬剤(降圧利尿剤、抗パーキンソン病薬、解熱鎮痛剤など)などがあります.
感覚性味覚障害には、頭頚部の腫瘍に対する放射線療法や舌炎など口腔や舌に対する障害をきたすものもありますが、この方でも指摘された亜鉛欠乏が味覚障害全体の14.5%を占めており1番高頻度です.亜鉛は体内にわずか2~3gしか含まれていませんが、100種類以上のいろいろな酵素に結合していて、インスリンの合成、遺伝子に関係のある核酸の合成、体内エネルギーの産生、過酸化水素の除去、細胞膜の安定などに関わっているといわれています.
その欠乏により食欲低下、皮膚などの障害、骨や軟骨の異常、生殖機能の障害、味覚・嗅覚・視覚の障害、中枢神経の障害、免疫系の障害などをきたします.亜鉛の欠乏は、摂取不足(肉、レバー、卵、海産物特に牡蠣など)、亜鉛を包み込んで腸管から吸収できなくしてしまう作用のある食品添加物(ポリリン酸、EDTA、フィチン酸など)や血液中で亜鉛濃度を下げてしまう各種薬剤(降圧剤、抗ガン剤、ステロイドホルモン、抗甲状腺剤、抗生物質、抗真菌剤、抗てんかん剤、精神安定剤、抗うつ剤、抗ヒスタミン剤など)の使用などにより引き起こされます.そして神経性味覚障害は脳腫瘍、外傷、脳血管障害、脳内の感染症や炎症などによって引き起こされます.
この方の場合は、亜鉛が足りないと言われ亜鉛をのまれて良くなってきておられるようなので、頻度から言っても亜鉛欠乏症であった可能性は考えられます.しかし3年間たっているとはいえ先ほど述べました糖尿病、シェーグレン症候群、ビタミン欠乏症や胃腸疾患などの全身性疾患が隠れていないか一度調べておく必要があるように思われます.それでもし何もなければ、嗅覚も亜鉛欠乏で障害されるといわれておりますので味覚は治ってきているわけですから根気よく治療してゆくとよいと思います.
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