脳ドックについて

2006.07.09 放送より

 人口の高齢化が進み、国民の医療費が増大する一方であるため、病気を早期発見・早期治療あるいは予防することにより医療費を少しでも抑えられるとして、予防医学の重要性が認識されてきております。神経内科の部門で予防医学といえば、まだ一般の方にはなじみが薄いのですが、脳ドックというものがあります。今日はその脳ドックについてお話しいたします。

 そもそも脳ドックが日本で始まったのは1988年頃といわれております。これはその頃、侵襲の少ない新しい検査法として磁気共鳴画像(MRI)が日本でも普及し始めたためです。そしてさらに1992年頃よりは非観血的に脳の血管の形態を調べることが出来るMRA(磁気共鳴血管撮影)が実用化され、可能になってきたからです。そしてこれに伴い脳ドックを実施する施設も増え、その同じ年に日本脳ドック学会が設立されております。その学会から2003年に新しく「脳ドックのガイドライン」が改訂されておりますのでそれに沿って説明してゆきます。

 始めに脳ドックを積極的に受けられた方がよいとされる対象の方は、中・高齢者です。その中でも脳卒中の家族歴のある方、高血圧・肥満・喫煙など危険因子を有する方などに特に重点的に受診が進められます。そしてどのような検査が行われているかですが、まず問診と診察があります。問診では一過性脳虚血発作などの既往歴があるか、家族の中に脳卒中の家族歴があるかなどのほか、生活歴や飲酒喫煙歴などについてもお聞きします。
それから診察は、血圧測定、脈拍触診、胸部聴診などの通常の一般的診察に加えて頚部血管の聴診と神経の局在徴候がないかどうか神経学的診察が行われます。次に血液検査・検尿などの検査については、血液では血液一般検査(Hb、RBC、Ht、WBC、PLT)、血液化学検査(TP、Alb、TCHO、HDL、血糖、HbA1c、尿酸、BUN、Cre)などを、検尿では蛋白や糖などを調べられます。

 さらには心電図検査を行い、心房細動という脳梗塞を起こしやすい不整脈を調べたり、心臓の虚血性変化や高血圧性変化など調べます。また頚部血管超音波検査を行って頸動脈の隆起性動脈硬化病変(いわゆるプラーク)や血管の狭窄・閉塞病変の観察したり頸動脈の血流速度の計測を行います。

それから脳ドックのメインの検査ともいうべき脳MRI検査ですが、これは少なくとも10mmかそれより薄いスライスでT1強調画像、T2強調画像、ならびにFLAIR画像あるいはプロトン強調画像などの撮影を行って、大きさが最大径で3mm以上といわれている無症候性のラクナ梗塞巣を出来る限り検出するというものです。またこの検査は脳虚血性の変化と考えられ脳卒中や脳血管性認知症の発症に関係が深いといわれている大脳白質病変や無症候性の脳腫瘍の検出にも有用です。

それからもう1つの目玉であるMRAですが、これは脳内の未破裂脳動脈瘤や主幹動脈の閉塞・狭窄病変の検出や頚部動脈の閉塞・狭窄病変の検出に用いられます。さらに選択(オプション)検査として、胸部X線写真、ホルター心電図、心臓超音波検査、などに加えて機能検査として脳波検査、脳血流検査、認知機能スクリーニング検査、心理検査などがあり、てんかんや認知症の初期などの検出を行うことも可能です。

 それでは脳ドックで検出できる疾患および病変について主なものについて簡単にお話しいたします。まず無症候性脳梗塞ですが、これはMRIのT2強調画像で直径3mm以上の不整形不均一な高信号領域として検出され、大脳基底核、視床、大脳白質などに認められ、脳卒中の高危険因子であるといわれております。

 次に大脳白質病変ですが、これはT2強調画像で脳室周囲や深部白質の高信号病変として認められ、この病変が高度な場合、脳室周囲のものは脳卒中の高危険因子であるといわれ、また大脳深部白質のものは認知機能や前頭葉機能の低下に関係があるともいわれております。

それから無症候性頚部・脳主幹動脈の狭窄・閉塞ですが、これらも脳卒中の高危険因子であり、これらが見つかれば、禁煙、節酒など生活の改善、高血圧、糖尿病、高脂血症など危険因子となりうる疾患に対する治療、抗血小板薬の投与などを行い、脳卒中に対する予防に努めます。

 また無症候性未破裂脳動脈瘤ではくも膜下出血を引き起こす可能性があるため、70歳以下の方で脳動脈瘤の直径が5mm以上のものでは原則として手術が検討されます。なお動脈瘤が発見されなければ3年以内の再検査は必要ないといわれております。それから無症候性脳腫瘍としては、下垂体腫瘤、髄膜腫、グリオーマなどが、無症候性腫瘍様病変としては、くも膜下嚢胞やコロイド嚢胞など様々な嚢胞性腫瘤が発見されることがあります。

 以上、本日は脳ドックについてお話ししてまいりましたが、現在はまだMRIを中心とした画像検査が中心ですが、脳は肺や胃腸よりもより高度で複雑な機能を持っておりますので、今後PETなどの機能的な検査法が進歩しましたらより高度な脳ドックが可能になるものと思われます。

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