甲状腺について
2002.11.26 放送より
お葉書拝見させていただきました.その内容をまとめさせていただきますと、27歳のお嬢さんが4年前から左半身(特に腰)が重くてだるいと訴えられているということと、甲状腺に問題があると内科でいわれたことがあるということで、今回は特に甲状腺についてお教え願いたいというご依頼であります.
それではまず甲状腺とはどういうものかについてお話します.甲状腺はご存じの方も多いかと存じますが、頚の中程すなわち喉仏と胸骨の間の皮下にあり、丁度気管の前に位置しております.その形は、馬蹄形あるいはH型をしており、通常15-20gの重さで薄くて手で触れても分かりません.そしてその役割はワカメや昆布などに多く含まれているヨードを原料にして甲状腺ホルモンを作り、それを貯蔵しておくことです(通常2-3週間分は貯蔵できるといわれています).この甲状腺ホルモンにはT4とT3の2種類がありますが、甲状腺ではより安定なT4の形で分泌され、肝臓などでより活性の高いT3に変換されます.
甲状腺ホルモンの作用は、T4、T3ともに体の細胞に対して酸素消費を上げ、蛋白合成を盛んにするなどして新陳代謝を活発にさせることや交感神経系の感受性を増加させることなどです.すなわち甲状腺ホルモンが働くと、脈拍や発汗の増加、血糖の上昇、コレステロールの低下などが起こります.この結果、甲状腺ホルモンの過剰状態では、動悸、体重減少、神経過敏、下痢などが、逆に低下状態では徐脈、体重増加、動作緩慢、便秘などが起こります.このように全身の体調に大きな影響を与えるホルモンですから、頭の中のホルモン調節の中枢である視床下部や下垂体によって分泌を調節されております.
それでは甲状腺自体の説明はこのくらいにして、次に甲状腺の病気についてご説明いたします.さきほども申しましたように、甲状腺は通常触れませんので大きくなって目立ってきて始めて異常じゃないかと心配になるわけです.甲状腺がさわれるようになった場合でもその機能は、亢進しているもの、正常のもの、低下しているものに分けられます.まず亢進しているものでは、やはりその疾患の代表は、有名なバセドウ病です.
この病気は20-30歳代の女性の薬300人に1人にみられるといわれております.自己免疫疾患の1つといわれており、甲状腺を刺激するTSH受容体に対する自己抗体が生じ、それによる刺激のため血液中に甲状腺ホルモンが増加し、その結果、先ほど述べたような動悸(不整脈)、微熱、体重減少、発汗過多、神経過敏や全身倦怠感などがみられるほか、有名な眼球突出や振戦、さらには心不全や2次性の糖尿病などもきたすことがあります.治療には薬剤によるものとしてメルカゾールなど抗甲状腺剤の内服です.これは治療開始後約1-2ヶ月でこうかが現れますが、緩解率は10年の内服で約70%で、再発率も高いといわれています.これに対して手術は約95%で緩解し、再発率も1%と低いのですが、後に約75%が機能低下になるといわれています.そのほか放射線治療も高齢者で手術が困難な場合などに行われるようです.
次に機能低下ですが、この代表は慢性甲状腺炎あるいは橋本病といい、これまた甲状腺の細胞に対する自己免疫性疾患で、潜在性のもの(約70%)も含めると20-30歳代の女性の実に約25人に1人に存在するといわれています.甲状腺の破壊が進み、機能が低下してくると体温の低下、体重増加、皮膚乾燥、浮腫、無気力、行動力の低下、便秘、高脂血症などがみられます.治療は、潜在性のものすなわち甲状腺が腫れているだけでその機能は正常なものについてはそのまま経過を観察します.機能が低下してくれば、甲状腺ホルモンであるT4の製剤(チラージンS)を内服するようにします.
それから機能が正常な場合ですが、これには今お話いたしました慢性甲状腺炎以外にも単純性甲状腺種といいまして甲状腺ホルモンの原材料であるヨードの過剰な摂取や逆に摂取不足などで生じるもの(これは甲状腺ホルモンの需要増加のため10-30歳代の女性に起こりやすい)や甲状腺癌などがあります.甲状腺癌は90%と大部分が分化癌であり10年生存率が95%以上と極めておとなしい癌です.そのうちの80%を占める乳糖癌は日本人に多いもので若年女性にも多くみられます.進行が極めて遅いため15mm以下の微少癌の場合、自然仁消滅することもあるため見つけてもしばらく経過を見ることもあります.しかしリンパ節転移も起こすので、やはりまず切除してその後再発予防のため甲状腺ホルモン剤を内服することになります.
以上で甲状腺の説明を終わります.ご質問の方の症状とはあまり直接結びつくようではなさそうですが、甲状腺の病気はいずれも経過が長いので、過去に心配ないといわれても時々は受診を続けておられるようにしてください.
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