横紋筋融解症について

2005.06.27 放送より

 夏に起こりやすい病気ということで,先週は脳炎についてお話しいたしました.今週も引き続き夏に起こりやすい病気の1つとして横紋筋融解症についてお話しいたします.

 実は横紋筋融解症といいましても単一の病気ではありません.そもそも横紋筋融解症とは,骨格筋の変性や壊死により筋肉の細胞中に含まれている成分が血液中に流出しさまざまな症状を呈する状態をいいます.


そしてそれを引き起こす病態としては,夏場であれば熱中症や充分な給水も撮らずに激しい運動をした時など,それから阪神大震災や今年の電車事故でも有名になりました挫滅(クラッシュ)症候群,さらに各種薬剤の副作用としても起こります.

 それではまず熱中症における横紋筋融解症についてお話しいたします.そもそも熱中症の中には,多量の発汗に対して塩分の補給が不足し低張性脱水をきたして発症する熱痙攣,直射日光などに当たりすぎて頭皮の血管が拡張したり運動による筋肉への血流が増加するなどして一過性に血圧低下や頻脈をきたす熱疲労(この場合,体温はむしろ下がることもある),それに高温の環境下などで熱産生の亢進と熱放射の抑制のため体温調節機構が破綻して深部体温が40℃を越えたり高度の脱水のため意識障害をきたしたり多臓器不全も伴って死に至ることもある熱射病などがあります.

 これらの中で横紋筋融解症をきたすのは,熱射病の場合です.この場合の横紋筋融解症は,深部体温が40℃を越えて骨格筋の変性や壊死が起こり,筋細胞より蛋白や電解質などいろいろな成分が血液中へと流出いたします.症状としては,四肢の脱力やしびれ,筋肉の痛み,硬直,腫脹などがみられます.そしてこの状態が命に関わってくるのは,1つは筋肉中にたくさん含まれているカリウムイオンの血液中への流出です.血液中にはNa+>K+,筋肉中はNa+

 またもう1つの重大な問題は,筋肉には赤血球のHb(ヘモグロビン)が運ぶ血液中の酸素をもらうためMb(ミオグロビン)という蛋白質が大量に含まれております.このMbは分子量が比較的小さく丁度腎臓の尿細管という部分に詰まりやすくなっています.このため横紋筋融解症により筋肉からMbが大量に血中に放出され,通常の200倍以上もの血中濃度になりますとコーラ色の尿(=ミオグロビン尿)の出現と共に尿細管が詰まってしまい,一気に無尿となり,腎不全が進行します.

 熱中症の治療は,診断し次第,体を氷で冷やすなどして体温を下げることや輸液により脱水や電解質異常の補正をすることなどに加え,呼吸や循環などの全身管理も必要で,さらに不幸にして横紋筋融解症を併発してしまった場合には血液透析などを行って腎不全を乗り切る必要も出てきます.なお夏場に水泳や登山さらにマラソンなど激しい運動をする場合,脱水や筋肉内のうつ熱などによって筋肉が損傷を受けやすくなり,熱中症とまではならなくとも横紋筋融解症をきたすことがありますので要注意であります.

 それから横紋筋融解症をきたす他の疾患として挫滅症候群があります.これは阪神大震災(約400名の方が罹患した)や尼崎の電車事故などで注目された疾患です.実はこの疾患は歴史的には古く,1940年のロンドン大空襲の際,外傷による骨格筋の損傷後に多くの方が腎不全で亡くなったことに端を発しております.災害時に手足,腹部,臀部などの筋肉が挫滅したり2時間以上にわたり圧迫されますと筋細胞が壊死を起こします.

 救出された時に元気であっても救出に際して筋肉への圧迫が解除されるため傷害された筋肉から血液中に大量のカリウム,Mb,それに血液凝固に関係のあるトロンボプラスチンなどが放出されます.このため圧迫され挫滅を受けた筋肉は腫脹し,引き続いてショック,出血傾向(DIC),腎不全などの重篤な全身症状をきたします.このように最初は元気でも時間の経過と共に急変することがありますので,局所の筋肉が腫れ点状出血を伴っているような場合には挫滅症候群を疑い,輸送時には傷害された手足を縛ったり,必要があれば局所の筋膜の切開をしたり,充分な輸液,高K血症に対する処置などを行い,全身状態の悪化を予防してゆく必要があります.

 さらにまた横紋筋融解症をきたす原因に薬剤があります.その薬剤としましては,悪性症候群を惹起するとして知られているクロルプロマジンやハロペリドールといった向精神薬,L-ドーパなどの抗パーキンソン病薬を急に中断した場合,バルビタール系の薬,アルコール中毒などいろいろありますが,より一般の方に関係のある薬剤としては,高脂血症の薬(フィブラート系薬剤,HMG-CoA還元酵素阻害剤)などがあります.これらの薬剤を使っておられる方は時々筋肉の酵素であるCKを計ってもらうようにして下さい.

 以上,本日は横紋筋融解症についてお話しさせていただきました.

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