呼吸不全と在宅酸素療法について
2004.05.26 放送より
最近マラソンや登山でよく携帯用の酸素を吸っておられる方をテレビで見かけることがあります.これは激しい運動負荷により身体に対する酸素の需要が増えすぎたために酸素濃度を上げようとしてしているわけですが、今日はいろいろな病気のため呼吸の具合が悪くて酸素の必要な方に対して在宅で行う酸素療法についてお話しいたします.
それではまず呼吸についてご説明いたします.皆様もご存じのようにそもそも人間は酸素を使って生きてゆくのに必要なエネルギーを得ております.すなわち身体を流れる動脈血には血色素であるヘモグロビンに結合した酸素を多く含んでおり、この酸素は脳や筋肉などの末梢組織で切り離されエネルギー産生に利用されます.そしてエネルギー産生の結果出来た二酸化炭素をもらって静脈血となって帰ってくるわけです.
すなわち肺を通っている間に血液中の二酸化炭素は吸い込んだ空気(=吸気)中に排出され、吸気中から酸素は血液中に取り込まれます.通常呼吸は1分間に14~20回、1回に約500mlの空気を換気しその内の約350mlが肺まで届くといわれています.そしてこの呼吸に関与しているのが、肺を構成している気管支から肺胞に至るまでの呼吸器や肺を膨らませるために必要な呼吸筋などです.すなわちこれらに異常が起こり、通常は80~100mmHg位ある動脈血中の酸素濃度(酸素分圧)が、60mmHg以下に低下し息苦しくなってくると呼吸不全と診断されます.
呼吸不全には、二酸化炭素の濃度(=二酸化炭素分圧)(これは動脈血中で通常35~45mmHg)が、上昇するものと上昇せずにむしろ低下することがあるものもあります.また呼吸不全を起こしてくる障害には、呼吸に参加する肺の容積が減る拘束性障害と空気の通り道が閉塞して呼吸が出来なくなる閉塞性障害があります.
それでは在宅酸素療法(home oxygen therapy=HOT)について説明いたします.HOTは呼吸不全が慢性にあり、しかも進行して動脈血酸素分圧が55mmHg以下になっている方、ないしは60mmHg以下で睡眠時あるいは運動時に著しい低酸素血症をきたし医師が必要と認めた方に行われます.すでに1985年より保険適応となっており、現在約12万人の方が利用されております.HOTを受けられている方の基礎疾患として最も多いのは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で約40%を占めております.この病気は肺の慢性的な炎症によって気道が細くなり肺の一番終末の部分で実際に空気の交換を行っている肺胞という小さな袋が破壊され、いわば肺というスポンジが孔だらけになってしまった状態です.
タバコを吸う人の約10%に起こるといわれ、潜在的な患者さんは530万人と肺癌よりも多くタバコを吸うならこちらで命を落とす可能性が高く社会問題となっています.その他、肺結核後遺症が18%、間質性肺炎あるいは肺線維症が12%、肺癌が同じく12%と続きます.肺の病気以外でも心疾患や呼吸筋に萎縮がくるような神経筋疾患でも行われることがあります.HOTの実際としては、室内の空気中の酸素は21%(窒素は78%)含まれていますが、これを酸素濃縮装置により90%以上に濃縮して病気の種類や必要に応じて1分間に0.5~5L程度流し吸入します.また電気代がかからないため月に1~2回交換する必要がありますが液体酸素装置を使うこともあります.
酸素吸入により労作時の息切れや呼吸困難などの症状は軽減あるいは消失いたしますが、いつ酸素を吸入すればいいか知るあるいはどのくらいの流量で吸えばいいか決めるためには身体の中の酸素濃度を知る必要があります.
酸素療法の適応基準となっている動脈血の酸素分圧の測定は、動脈を穿刺して採血する必要があり在宅では実用的ではなく、代わりに動脈血酸素飽和度を測ることで推測することが出来ます.これは指先の爪にパルスオキシメータという小さな測定端子をつけ、片方から赤色光と赤外光を同時に当て指先を通り抜けて反対側の受光センサーに捕らえられた2つの光の比率から動脈血酸素飽和度(SpO2と略、正常は96%以上)を計算することが出来ます.血圧の低下や浮腫、爪にマニキュアなどをしていると測定出来ませんが、この測定値と動脈血酸素分圧の間には例えば分圧が55mmHgであれば飽和度が86%、59mmHgであれば90%とおおよその関係があることから簡便に何度も呼吸状態を知ることが出来ます.
ただしこの道具は二酸化炭素濃度を知ることは出来ませんので、酸素飽和度が低いからといってむやみに酸素の吸入量を上げるのは病気によってはCO2ナルコーシスという危険な状態に陥る危険性があり、やはり主治医の先生とよく相談して使うことが重要です.この他に単に酸素を吸入するだけでは維持出来ない方に対しては在宅での人工呼吸療法がありますが、それはまたの機会にお話ししたいと思います.
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