医療と人権について
2005.12.14 放送より
今日が今年の最終の放送ということでこの1年を振り返りまして、私にとって今年1番緊張したことをお話しします。それは7月に郷土文化会館で「医療と人権」という演題で200名余りの教職員の方々の前で1時間半に渡り講演したことです。普段、学生さんや生徒さんの前でしゃべり慣れている方々に講演するということは、私にとって初めての経験でこの放送を始めてした時と同じくらい緊張しました。今日はその時の内容にについて患者の権利を中心にお話しいたします。
そもそも患者の権利は1981年の9月にポルトガルのリスボンにおいて世界医師会の第34回総会で採択されました。そしてその後の時代の変遷に伴い、1995年9月にインドネシア・バリにおける同第47回総会にて改訂されました。その要旨ともいうべき前文を披露しますと「医師、患者、社会一般という3者間の関係は近年著しく変容して来ている。医師は常に自己の良心に従い、患者の最善の利益のために行動すべきであるが、患者の自律と公正な処遇を保障するためにも同等の努力を払うべきである。
本宣言は医療従事者が是認し、推進すべき患者の主要な権利を全てではないが列挙したものである。医師およびその他の医療に従事する者・機関はこれらの権利を認容し擁護する共同の責任を有する。法律や行政、あるいはその他の機関や組織が患者の権利を否定する際には、医師はその権利の保証あるいは回復のため適切な手段を講じねばならない。ヒトを対象とする生物医学(biomedical)研究(治療を目的としないものを含む)においても、被験者には研究を目的としない通常の治療を受ける患者と同等の権利や配慮が与えられるべきである。」というものです。そしてその後に全部で11の項目からなる権利が唱えられています。
その中から主なものを取り上げてみますと、まず良質の医療を受ける権利というのがあります。これは「すべての人は差別なしに適切な医療を受けることが出来る。常に最善の利益に即した治療を受けることが出来る。その治療の内容は一般的に受け入れられた医学原則に沿って行われるもので医療の質が保証されていなければならない。そして供給の限られた特定の治療に関しては公平な選択手続きにより差別なく行われなければならない。また治療は継続して受けられるべきである」というものです。誰でもが良質の医療を受けるに当たり経済的な理由により受けられなくならないように特定疾患や支援費制度、高額医療に対する補助など日本には公費負担の制度があります。また医療の質の保証という面では、最近では各種学会が独自に標準的な治療案を発表し、それに基づいていつでもどこでもある程度同じような治療が受けられるようになってきていますし、病院の質を保証するため機能評価を受けている病院も増えてきています。
次に選択の自由の権利ですが、「患者は民間とか公的などを問わず病院や医師を自由に選ぶことができ、いかなる治療段階でも他の医師に意見を求める権利を有する」というものです。これについては患者が民間の医療保険を買い、保険会社に指定された病院にしか行けない米国に比べると公的保険制度の発達した日本ではこの権利は守られているように思います。
それから自己決定の権利ですが、「患者には自分自身の診断のために必要な検査や治療などに関して同意や拒否を自由に決定できる自己決定の権利が有り、医師は患者に対してその決定がもたらす結果とその結果が意味することを分かりやすく知らせる必要がある。患者はまた医学研究や医学教育に参加することを拒絶する権利がある」というものです。これについては、最近よく耳にするインフォームド・コンセントやセカンドオピニオンが重要であり、患者および医師にとってはこれまでの父権主義から患者主体の医療への意識改革が必要です。さらに情報を得る権利ですが、「患者はいかなる医療上の記録であろうとそこに記載されている自己の情報(例外的にその情報が患者自身の生命あるいは健康に危害を及ぼす恐れがある場合は除く)を手に入れる権利を有し、またその説明を十分に分かりやすく受ける権利を有する。また逆にその情報を知らされない権利や自分に代わって情報を受ける人を選択する権利を有する」というもので、カルテは患者のものとして日本語で書き、かつ求めに応じて開示する必要があります。
このほか機密保持を得る権利、健康教育を受ける権利、尊厳を得る権利などがあります。
現在、伊月病院では、正面玄関に病院の理念や行動目標と共にこの宣言の中でも特に重要な項目を掲示して患者さんの皆様の権利を護ろうと努めておりますので、もし当院においでになられることがありましたらぜひ一度ご覧下さい。
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