先天性風疹症候群について

2003.02.11 放送より

 本日は伊月病院のホームページの方にご質問のあった先天性風疹症候群についてお話しいたします.先天性風疹症候群とは、お母さんが妊娠中に風疹にかかり、生まれてきた赤ちゃんにいろいろな障害をきたすことを言います.そこでまずは、風疹についてからご説明したいと思います.

 風疹とは、皆様もご存じのように3日はしかともいわれ、風疹ウイルスへの感染により起こります.5~9歳を中心に冬の終わりから春にかけての発生が多く、その感染経路は鼻や喉などにいるウイルスからの飛沫感染で、潜伏期間は14日から21日とされています.

 その症状ですが、発疹、発熱、リンパ節腫脹などがあります.大人や年長児では通常、発疹の現れる前に頭痛、倦怠感、微熱、結膜炎、リンパ節腫脹などがみられるようですが、子供では発疹から始まることも多いようです.発疹は麻疹よりも淡い直径3mmくらいの紅色の斑状の丘疹で耳の後ろや顔から始まり、体幹そして四肢へと広がってゆきます.だいたい24時間くらいで出そろい3日くらいで消えてしまいます.

わかりにくいこともありますが、シャワーなどで体が温まると目立ちます.リンパ節の腫脹は耳や頚の後ろなどにみられ、発疹の出現する1週間前からみられ数週間持続することもあります.その他の症状としては、指、手、膝などの関節痛や関節炎があり、大人の女性の約70%にみられ、発疹出現とほぼ同時に現れて1ヶ月くらい続くこともあります.合併症としては、風疹5000例に1例くらいの割りで脳炎を起こすことがあり、大人の女性に多いとされています.

 また血小板減少性紫斑病を3000例に1例の割で起こすともいわれています.診断は、発疹がある場合、その経過とあわせて診ただけでも鑑別可能ですが、確定するにはウイルス抗体価を調べます.ペア血清といいまして急性期と回復期(だいたい2週間後)の抗体価を調べてみてHI法での抗体が8倍以上上昇しているようなら確実です.

 またELISA法によって感染してから数ヶ月ほどしか持続しないといわれるIgM抗体を検出することも最近の感染を調べる1つの方法です.それから治療ですが、発病しても特別なものはなく、対照的に行います.むしろ予防としてMMRといって麻疹やおたふくかぜと一緒に3種混合ワクチンを接種することができます.

接種による副反応は接種後7日目くらいに現れることがありますが、子供で4%以下、大人で6%以下と低く、症状も発熱や発疹などがごく軽度にみられる程度であり、しかもワクチンによる抗体獲得率は約95%と非常に高くてよいのですが、IgG抗体は10年くらいで消失するともいわれており、成人する頃の抗体価の低下も報告されております.現に風疹に1回かかったことがあっても2回目かかることもあるようです.

なお風疹にかかった人が他の人に感染させる期間は発疹が出る前の数日から発疹出現後の5日くらいまで(発疹の出終わるまで)といわれていますし、また約1/4くらいの人は不顕性感染といって、風疹ウイルスに感染しても症状が出ないことがあります(もちろん人にうつす可能性はあります)ので注意が必要です.

 次に先天性風疹症候群についてお話しします.妊娠初期の女性が風疹に罹患しますと、流産、死産、早産などがみられたり、あるいは風疹ウイルスによって胎児の器官形成が障害され、胎児に先天異常がみられることがあります.その期間は、受精から数えて妊娠4週目までに罹患した場合50%以上(5-8週で35%、9-12週で15%、13-16週で8%)の確率で先天奇形を引き起こすとされています.

そして20週以降ならまず影響はないといわれています.さてその症状ですが、先天的な眼の障害として白内障や緑内障、網膜症などがあり、先天的な心奇形として動脈管開存、心室中隔欠損、肺動脈狭窄症などがあります.また感音性難聴も重大な障害の1つです.これら以外にも低出産児体重、骨端発育障害、小頭症、精神発達障害、脾臓腫大、肝炎、血小板減少性紫斑病などもみられることがあります.

 これらのうち特に難聴など神経系の障害は、今の医学では治せないものが多いのでやはり妊娠可能な女性は風疹に注意が必要です.すなわち大人になって妊娠可能あるいは妊娠を希望される方は、予め1度抗体検査を受け、抗体価が陰性であればワクチン接種を受けておくことをお勧めします.

 ワクチンの接種は妊娠期間中には禁忌であり、生理期間中あるいは月経直後に接種し、その後2~3ヶ月間は妊娠しないように心がけてください.また妊娠されてから風疹の抗体検査をお受けになる場合は、通常のIgG抗体の価であれば問題ありませんが、256倍以上と極めて高い場合には最近の感染が疑われますので経過観察が必要ですし、逆に妊娠初期に抗体価が8倍以下と陰性である場合には、不顕性感染の可能性も考えて妊娠20週までに再検査をする必要があります.

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