インフルエンザについて

2002.11.26 放送より

 今日は今年最後の放送ということですが、皆様今年はいかがお過ごしされましたか?きっといい年であったと存じますが、これから迎える新年をさらに良い年にできますようこれからの季節でもっとも怖いインフルエンザのお話をしたいと思います.

 インフルエンザはそもそも英語のinfluence(インフルエンス=影響とか感化という意味)からきています.昔は流行性感冒(略して流感)といわれ、いわゆる風邪症候群の1つとされておりましたが、普通の風邪とは違います.どう違うかといいますと1口でいいますとより強力ということです.すなわち人から人へとよりうつりやすく、かつ症状がより重篤で合併症なども引き起こしやすいということです.普通の風邪はライノウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、RSウイルスなどによって引き起こされます.

 このうち最も多いとされるライノウイルスなどでは感染様式は手から手などの接触感染といわれております.これに対してインフルエンザを引き起こすインフルエンザウイルスでは、くしゃみや咳、痰などによりはき出される微粒子(飛沫)あるいはそれが空中で水分の蒸発により乾燥縮小して飛沫核となってもそれらを吸い込むことにより感染が成立いたします.よって空気の乾きやすい冬場は感染が流行しやすいというわけです.

 またもう1つの違いである症状の重さですが、普通の風邪が鼻咽頭の乾燥感やくしゃみではじまり、鼻汁や鼻閉を主症状とし発熱は軽度であるのに対して、インフルエンザでは突然、悪寒や頭痛で始まり、38-40℃の高熱とともに激しい全身倦怠感、筋肉痛や関節痛など全身症状を伴います.これらの症状は4-5日間続き通常は約1週間で回復に向かいますが、重症化しますと気管支炎や肺炎、心筋炎など、さらに小児では中耳炎、熱性けいれん、脳炎や脳症などを併発することがあり、要注意です.

 重症化しやすいハイリスク群としては、成人では65歳以上の高齢者(高齢者は罹患率は低いのですがいったん罹ると重症化しやすい)、妊娠28週以降の妊婦、慢性肺疾患(肺気腫、気管支喘息、肺線維症、肺結核など)、心疾患(弁膜症、心不全など)、腎疾患、糖尿病、副腎不全、免疫不全状態などの人が挙げられます.

それ以外の普通の風邪とインフルエンザの違いは流行性の差が挙げられます.すなわちインフルエンザは流行性が強く、日本では通常その流行は小学校で始まり、学級閉鎖となることもしばしばですが、普通の風邪では通常そのようにはなりません.

 以上のような違いがあり、インフルエンザは死亡者が出るほど怖い疾患ですので治療や対策も特別なものが考えられております.その1つが皆様おなじみのワクチンです.インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスを有精卵で培養して増やし、そのウイルス粒子の表面にある赤血球凝集素(HA)という糖蛋白を取りだして、これに対するワクチンを作成したものです.インフルエンザウイルスは、その表面にHA以外にノイラミニダーゼ(NA)という別の糖蛋白も持っています.

 インフルエンザにはA型とB型があり、A型ではマイナーチェンジを起こしたり、突然変異を繰り返すなどしてしばしば大流行するわけですが、その際にはHAには15種類のNAには9種類のサブタイプがそれぞれあり、この2つの型の組み合わせが変わります.例えば過去に流行したソ連型はH1N1、香港型はH3N2などというように分類されております.そこで今年流行しそうなのはどの型と予想してあらかじめワクチンを作るわけです.ワクチンは効果が出るまでに2週間かかり、その効果は約2-3ヶ月続くといわれておりますので、流行する前に接種してください.

 特に先ほどのハイリスクのかたは接種しておいた方がよいと思います.なお従来は2週間くらいあけて2回の接種でしたが.今年から中学生以上のかたは1回の接種でよいことになっているようです.次にそれでも仕方なく罹ってしまった時のことですが、先に述べましたノイラミニダーゼというウイルスの増殖にかかせない酵素をブロックしウイルスの増殖を抑える薬剤が、最近使えるようになりました.これを発症してから2日以内すなわちまだウイルスが全身に拡がらないうちに使用しますと自覚症状の期間を30%短縮でき、症状の程度を20-60%軽減させるといわれています.できるだけ早く服用すればするほど良いわけですから、少しでもインフルエンザが疑われたら迷わずかかりつけ医を受診してください.

 以上が対処の仕方ですが、やはり従来からいわれておりますように、日常生活で栄養と休養を充分にとり抵抗力をつけること、人混みを避けるか避けられないときはマスクを着用し、外出後にはうがいや手洗いを励行するなどしてウイルスに接触しないようにすること、そしてウイルスは湿度に弱いので部屋を適度な温度と湿度に保つことなどにより、予防することも大切です.

 それではまだ少し早いようですが皆様良いお年をお迎えください.

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