神経内科について
2005.08.12 放送より
今日は聴取者の方のご質問にお答えいたします.この方の75歳になるお父様が6年前に頸椎の怪我をし,それ以来足にシビレを感じていて,この方の友人に相談されたところ「神経内科で診てもらえば」といわれたそうで,この初めて聞く「神経内科」という科はいったいどういう科であるのかというご質問です.
まずこの方は,頸椎の怪我が元で足がしびれているということですが,これは恐らく頸椎症によるものと思われます.こういった場合,通常,整形外科か脳神経外科にかかられることが多いように思われますが,これらの科は外科系ですし,さらにもう6年もたっているので内科系ならどの科にかかればよいか迷うところです.そこでこのような場合,徳島県では残念ながらまだなじみが薄いようですが,神経内科という科がまさしくぴったり当てはまります.
そもそも神経内科は,英語でNeurologyという用語を九州大学で昭和39年に日本で初めて神経内科の教授になられた黒岩義五郎先生が和訳された言葉です.Neurologyの前半のNeuroという部分はNeuronすなわち神経あるいは神経細胞という言葉で,残りのlogyは学問という意味です.すなわち直訳すれば神経学という言葉になり,本来は神経科と訳した方が正確だったのかもしれません.しかし日本では新しい学問であったNeurologyに対してその当時からすでに多くの大学に講座があった精神科が,ところによっては既に神経科あるいは神経精神科と名乗っておりました.ちなみに精神科に相当する英語はPsychologyなのですが,精神科では不安神経症であるノイローゼもあつかっていたことから神経科を名乗ったものと思われます.
そこでこの2つの科の混乱を避けるべく黒岩先生は,神経内科と名付けられたと聞いております.というわけで神経内科は脳や脊髄にある神経細胞の病気をあつかう科ということになります.すなわち神経内科では,患者さんの手足の痛みや脱力,言語障害,複視など神経の障害に起因した症状について,神経系の病変の局在と性質を科学的・論理的に分析して診断を下し,治療してゆく内科系の診療科であります.
これに対して一般の人によく間違われやすい精神科(あるいは神経科,神経精神科や精神神経科)は,ものの考え方や感じ方などに変調をきたした患者さんの症状や所見を観念論的に理解して診断し,治療してゆく科であります.そしてまた最近ではより新しい診療科として心療内科という科も耳にします.これは「病は気から」という言葉がありますが,例えば胃潰瘍や高血圧は精神的ストレスで発症することがあり,また逆に胃潰瘍や高血圧により精神的にストレスがかかってしまうという悪循環をきたし,いずれか一方だけを治療しようとしてもうまくいかない場合,心と体,すなわち心身両面から治療していこうという内科系の科をいいます.
このようによく似た言葉がいろいろあって紛らわしいのですが,要するに神経内科は,簡単に言えば脳神経外科の内科版(本当は少し違いますが)と言えば一般の患者さんに分かっていただきやすいかと思います.そして内科は勿論のこと小児科,脳神経外科,整形外科,精神神経科それに心療内科などとも連携して診療しております.
それでは次に神経内科では具体的にどういう疾患をあつかっているかお話しいたします.神経内科で診療する主な疾患としては,まずは脳血管障害があげられます.これには脳梗塞,脳出血,くも膜下出血,それに一過性脳虚血発作などが含まれます.脳血管障害といえば従来から脳神経外科の病気というイメージが強いようですが,外科的処置を要する脳出血やくも膜下出血などを除き,保存的な治療で済む脳梗塞などは,始めから神経内科がみて治療するのが一般的です.実際,脳血管障害を集中的に診療するストロークケアユニットがある徳島大学でも同ユニットは脳神経外科と神経内科によって構成されています.
それから次に神経内科では神経難病をあつかっております.私の専門分野でもあり,これまでこの放送でも何度か取り上げてきましたようにこの中に属する病気としては,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症など神経変性疾患に属するグループと多発性硬化症や重症筋無力症など自己免疫性神経疾患に属するグループがあります.これらの特徴は数は少ないのですが,治りにくく社会問題として取り上げられることも多く,また他の診療科がほとんどあつかっていないという特徴もあります.
それから次に数の多い疾患としては緊張性頭痛や片頭痛といった各種頭痛やめまいなどもみております.さらに脳髄膜炎,質問者の方が該当すると思われる脊髄症,末梢神経疾患,筋疾患などに加え,精神科などとの境界領域としててんかん,軽度のうつ病,心身症なども対象としております.
神経内科は,あつかう疾患が多種多様であり守備範囲の広いのが特徴の1つであります.どうせ分からないからと諦めている方にはぜひとも受診していただきたい科であるとお勧めいたします.
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