日本人の名前の付いた病気について
2004.11.11 放送より
今年1年を振り返ってみますと,アテネオリンピックの金メダルラッシュ,イチローやゴジラ松井選手の大リーグでの大活躍,そして小さな田伏雄太選手のNBAデビューと日本人は世界のスポーツ界で大活躍しました.そこで今日は日本人として医学の世界に名前を残している人の業績を知っていただくため日本人の名前の付いた病気についてお話しします.
そもそも日本人の名前を冠した病気は,実は40以上あります.甲状腺の橋本病,子供にかかる病気の川崎病などが有名ですが,眼科では有名な原田病や高安動脈炎ほか少なくとも4つあります.そして神経内科は元々珍しい物も含めて病気の数自体が多いのですが,垂井病,里吉病,平山病,瀬川病とあり,さらに三好型や福山型といった筋肉の病気も含め実に少なくとも6種類が数えられます.今日はこれらの中から特に有名な2つの病気についてお話しいたします.
それではまず1番多いと考えられる橋本病からお話しいたします.橋本病は1911年に九州大学医学部第一外科教室の橋本策(はかる)先生によって特異な甲状腺炎として発見されました.この時橋本先生は大学を卒業されてわずか4年目なのですが,その時の主任教授が,徳島の当時の美馬郡三島村,現在の穴吹町出身の三宅速(はやり)先生であったというのは驚きです.この病気は,慢性甲状腺炎ともいい,自己免疫性甲状腺疾患に属し,甲状腺の特定の成分に自己抗体ができ(特に甲状腺濾胞細胞内のミクロゾームに対しての自己抗体が見つかり易い),長年にわたる炎症による甲状腺の破壊のため次第にその機能が低下してゆく病気です.
この病気は10対1といわれるほど圧倒的に女性に多くみられ,またよく調べると,女性の10~20人に1人の割合でみられるといわれるほど頻度の高い病気です.症状としてはまず甲状腺がびまん性に硬く腫れてきます.そして約40%の人に甲状腺機能の異常が見られます.甲状腺機能の異常としては,1部には機能が亢進することもありますが1過性であり,通常は機能が低下いたします.その症状としては,全身症状として寒がりとなり,疲れやすく動作が鈍くなります.また無気力で物忘れも目立つようになり痴呆や抑うつ状態のようにみえることもあります.
さらに低体温となり,汗もかきにくく肌は乾燥し,脈は遅くなり,むくみも出現します.また食欲は落ちますが,体重は増え,高脂血症,肝障害,貧血などもみられます.甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝に関係しておりますので,これが足りなくなると心身の活動が低下してしまいます.治療は甲状腺ホルモンが低下してきたら,不足した分の甲状腺ホルモンをのんで補うことで済みます.但し,時々採血して甲状腺ホルモンを調べながら長期にわたり内服する必要があります.
次に川崎病ですが,これは1967年に当時の日本赤十字病院小児科(現日本赤十字医療センター)にお勤めになっていた川崎富作先生が,急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(MCLS)と言う名前で報告されました.この病気は,川崎先生が名付けた病名のとおり,4歳以下の乳幼児に急に38℃以上の高熱が出て,抗生剤にも反応せず5日以上続きます.また眼や口唇が発赤,充血し腫れたり,舌の表面にイチゴのような赤いぶつぶつが目立ったり頚のリンパ節が痛みを伴って腫れます.
さらに胸や腹などを中心に麻疹や風疹様あるいは蕁麻疹様の発疹がみられ,手指や足趾の先は,病初期には,赤く腫れ,後に1週間後当たりから指先と爪の間から皮膚が膜のようにはがれます.そしてこの病気を有名にしたのは,この病気にかかったわずか数歳の子供が,まるで大人の心筋梗塞のように急死することがあるということが分かったからです.発症年齢は6ヶ月から1歳代に多く(4歳以降は少ない),発症数は年間1500~2000人程度といわれています.やや男児に多く,同胞発症は1~2%で遺伝性は明かではありません.致死率は0.3%程度で,数年後に2~3%が再発するといわれています.
この病気の原因は未だはっきりしませんが,その病態は全身の中小動脈の炎症です.通常は約1ヶ月間で炎症が治まり予後はよいのですが,約20%に心臓を栄養する冠状動脈が炎症により狭くなったり,あるいは動脈瘤が出来たりしてさらに中には血栓性閉塞や心筋障害をきたして突然死を招くことがあります.治療はアスピリンの投与に加え,冠動脈瘤の発生を防ぐため川崎病と診断がつき次第,ガンマグロブリンを点滴静注するようです.また良くなった後もまれに後から冠動脈瘤が発生することがあり,年に1~2の検診が必要です.
最後に徳島県に関係の深いものとして三好ミオパチーという病気があります.この病気は,筋ジストロフィーの1種で,徳島大学医学部内科学第一講座の三好和夫教授が,1967年に発表されたものです.実は三好先生は先日11月9日に90歳でお亡くなりになられました.今日は時間の関係と私のような同門の末席のものがこのような時期にお話しするのは気が引けますので,改めて機会を設けてお話ししたいと思います.この放送を借りて先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます.
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