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キアゲハ通信No.142-「2023年ノーベル生理医学賞」

2023.10.31 更新

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「2023年ノーベル生理医学賞」

院長 西田 善彦

 今年もノーベル賞が決定しました.そのトップバッターとして生理医学賞が発表され,受賞者として新型コロナウイルスに対するワクチンの開発に寄与したカタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン氏が選ばれました.カリコ氏は遺伝情報を担うメッセンジャーRNA(mRNA)の基礎的な研究,ワイスマン氏は免疫学者としてmRNAをワクチンに利用する研究を共同で行われました.

 新型コロナウイルスワクチンは,世界で初めて実用化されたmRNAワクチンであり,生ワクチン,賦活化ワクチンに続く第3のワクチンとしてノーベル賞に値する画期的なものです.この新しいワクチンの作成に当たっては,そもそもmRNAは体内ではすぐに分解されてしまうことや外部から侵入したmRNAは異物とみなされて過剰な炎症を引き起こすため,その開発に大きな障壁が存在していました.このうち体内に無事取り込ませることは脂質膜でできた100nmほどの小カプセル内にmRNAを封入することにより解決しました.また過剰な免疫反応を抑えるためには,自分自身のmRNAと外来mRNAを見分ける仕組みを突き止め,シュードウリジンという修飾塩基を外来mRNAに導入することにより自身のmRNAに見せかけて攻撃されることを防ぐ方法を両氏により考案されました.こうして新型コロナ禍から多くの人を救うことが出来たのは皆様ご存じのとおりです.

 さてこの両氏はアメリカのペンシルベニア大学の研究室のコピー機の前で偶然出会って意気投合し2005年に共同で論文を発表されたと言われています.カリコ氏は元々共産圏のハンガリー生まれで車を売って工面したなけなしのお金を娘のぬいぐるみに隠して命がけで渡米して研究者となり,その後も資金面で相当苦労されたと言われております.カリコ氏の何事も始めたら自分を信じて最後までやり抜くという姿勢は,(とても真似は出来ませんが)大変参考になると思いました.

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