排尿障害
2000.06.04 放送より
おしっこの悩み
特に年をとるとこの悩みは程度も頻度も大きくなるものですね。今回の話は、主に泌尿器科の医師の専門分野ですが、内科医の観点からみたお話を加えながら、お話を進めていきたいと思います。
1.頻尿・尿失禁のような蓄尿障害・・・尿をためることが出来にくくなる
2.排尿困難のような排出障害・・・尿を出すことに問題がある。
老化そのものが、これらを起こすのですから、生理的なものとも言えるのですけれど・・・・
普通、膀胱に尿が一杯になっても、中枢神経の排尿を抑えるメカニズムがあって、かなりの尿量が溜まっても、これを維持することが出来ます。
そうですね。膀胱を風船に例えてみると、判りやすいと思います。風船の、空気を吹き込む口を下に向けている形を頭の中に思い浮かべてみてください。
腎臓でつくられた尿が膀胱に流れ込んで溜まっていく時は、風船の口にあたる尿道括約筋がギュッと収縮して、膀胱(風船)の筋肉は弛緩(ゆるむ)していきます。だから飛んだり跳ねたり重い荷物を持っても、尿を漏らすことはないのです。どんどん尿が溜められて(300cc~400cc)、今度排尿する時は逆に、膀胱(風船)がシューッと縮み膀胱括約筋(風船の口)がゆるむのです。この尿を溜めるのも、排出するのも中枢神経や末梢神経レベルで、うまく調節されています。
しかし老年になると、
1.大脳あるいは脊髄の血管の硬化や閉塞で、この抑制メカニズムがうまく働かなくなり、すぐ排尿してしまうようになるのです。
多いのが脳血管障害で、男女に関係なくおこります。
また、脳卒中の後遺症などで、手足の麻痺が残り体の自由がきかなくなってしまったかたは、尿意があってもトイレに行くことが間に合わず、尿を漏らしてしまうことがありますよね。
2.また、膀胱そのものの弾力繊維が乏しくなって硬くなり膨らまなくなる(風船が古くなると膨らみにくいですよね)ので、尿がうまく溜まらなくなる。
3.それから膀胱や尿道の括約筋。これは尿を溜めるため尿道をキュッと締める働きをしている(風船でいえば丁度、口の所にあたります)ものですが、これも年齢と共に弱くなってきて、漏れてくる尿を抑えられなくなる。
また、中高年の女性で、咳やくしゃみでおこる尿失禁は、お産や肥満あるいは更年期後のホルモン分泌の変化などが原因となり、骨盤の底をつくる筋が弱くなって、腹圧がかかった時に尿が漏れるのを抑えられなくなる。
ここまでは、男女とも共通の仕組みです。これに加えて、男性の場合は「前立腺」の影響が出てきます。
前立腺は、膀胱の下に位置する、クルミ大の臓器で、ちょうど尿道を取り囲むような状態になっています。
高齢になるに従って体内のホルモンバランスの変化から前立腺が大きくなり、
60歳以降の約半数に前立腺肥大がみられます。前立腺肥大があると、尿道が締め付けられ、おしっこの出が悪くなります。
4.これまでと少しメカニズムが違いますが、残尿が多くなる病気があります。慢性的に膀胱内に、もういっぱいいっぱい尿が溜まりすぎる病気で、膀胱尿が仕方なく自然にあふれ出てくることがあります。
前立腺肥大症や糖尿病性神経障害がそうです。
5.また、膀胱炎や前立腺炎でも頻尿や時に尿失禁をおこします。老人に限らず若年者でもみられます。
6.お薬の中で、頻尿や尿失禁につながる作用を持つものがあります。
高血圧や心臓の不整脈のお薬でα-ブロッカー、β-ブロッカーと呼ばれるグループ、利尿剤のグループ、抗不安剤や睡眠剤も意識や判断力が低下して尿失禁につながる可能性があります。
ここまでをまとめると、蓄尿・排尿の仕組みは
1.風船(膀胱)がふくらんだり、しぼんだりする働き2.風船の口(尿道括約筋)が締まったり緩んだり3.これを調節する神経系統
と、この3つが関与しており、これらの働きが悪くなるといろろな排尿障害が起こってくる。さらに男性では4.前立腺の肥大の有無が関与してくる。
こうして見てきますと、頻尿や尿失禁はいろいろなメカニズムで起こることがお判り戴けたと思います。しかも、これらが単一で起こるより、重複して病態を作り上げていることが結構多いのです。
これらに対する検査は、尿検査や超音波検査あるいはCTで、排尿の前後をみること。泌尿器科では膀胱の内圧を測定したり、尿の流量を測定したり鑑別していくわけですが、問診にて大体の見当がつくことも多いようです。
ですから、主治医の先生に、何時から頻尿になったかとか、どんな時あるいはどのように失禁するのか(夜にもおこる)など、出来るだけ詳しく内容をお話をして相談をしてください。
それでは、治療の方に話を移していきましょう。
頻尿・尿失禁、つまり尿を溜めることが出来難くなるということに対しては
1.膀胱の筋肉の緊張をとってやる
筋弛緩剤、抗コリン剤というグループ剤で、ここ10年位のうちに良い薬剤が何種類かでています。
2.中高年の女性に多いタイプで、咳やくしゃみなど腹圧が掛かった時での尿失禁は骨盤邸をつくる筋が弱くて起こるので、筋を鍛えるのがよいでしょう。
筋を鍛える運動としては、どんな風にするかというと、
仰向けに寝るか椅子に腰掛けた状態で、肛門から尿道の周りの筋肉をギュッと強く締め付け5秒間、そしてゆっくりとゆるめる。
人前でガス(おなら)が出そうになった時に、肛門をギュッと締め付ける時の要領ですね。
これを一日に数十回くらい繰り返し、さらに腹筋や背筋を鍛えると一層効果的です。中等度の尿失禁症であれば、7割の方はこの運動により改善されます。どうしても治らないようですと、手術する方法もありますので、泌尿器科あるいは婦人科の医師にご相談下さい。
ここからは、前立腺のお話です。
50才以降の男性で「最近、おしっこの出が悪くなったな」という方のほとんどが前立腺肥大症良性)です。
具体的に申しますと、おしっこの勢いが弱かったり、力まないと出ないあるいは、途中でおしっこが途切れたり、残尿感があったり、主に尿の排出が困難という症状です。
前立腺が、年齢と共に大きくなって尿道を締め付けている(風船に例えると、吹き出し口の所をギューッと圧迫している)ので、中の尿(空気)が出にくくまたは少し残ってしまう。
こちらの治療は、尿道の緊張をとり広げる作用のお薬(α-ブロッカーというグループの薬)があります。
これで十分でない時は手術ですが、最近では開腹せずに尿道から前立腺を削りに行くことが出来るようになっています。
排尿障害ですが、前立腺肥大気味の方、は薬の副作用にて尿が出にくくなることもあります。
風邪薬(抗ヒスタミン薬・鎮咳剤)、胃痛薬(腹痛薬)、抗うつ薬、抗精神薬などで、普段は何とか尿を出せているが薬を飲むと尿が出なくなってしまうことがありますのでご注意下さい。
前立腺肥大症は人口の高齢化に伴って増加していますが、前立腺癌はそれ以上に増加しています。
日本人には少なかった前立腺癌ですが、食生活の洋風化などライフスタイルの変化などの変化が原因とか、男性ホルモンの影響あるいは遺伝的要因とかがいわれているようですがまだ、よくわかっていません。
また、前立腺癌は特有の症状がないために、早期発見が困難です。前立腺肥大の検査を追求していって初めて癌であったという事もしばしばあります。
中高年の男性で、最近おしっこの出が悪いとか、残尿感があるとか、不快感があるという症状が続いている方は、「年だから」と思って放っておかずに、念のために検査をお受け下さい。
超音波検査や血液検査「PSA(前立腺特異抗原)」などの検査がありますので、主治医に相談してみてくださいね。
細井恵美子
追記:徳島市の健康診査では、2001年より新たに有料(一部徳島市負担)ですが、45歳以上の男性(市内在住)はPSAという前立腺の血液検査が受けられるようになりました
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