多発性筋炎について

2001.05.17 放送より

 以前に慢性関節リウマチについてお話しいたしましたので、今日は同じく自己免疫性疾患の1つであります多発性筋炎についてお話しいたします.自己免疫疾患とは、以前にもお話申し上げましたように免疫の異常、すなわち自分の身体を細菌やウイルスなどから守る免疫のバランスがくずれて、健康人では認められない自分の身体に対する抗体(自己抗体といいます)などを持ち自分で自分の身体を異物のように錯覚して攻撃してしまうことにより発症する疾患です.

 多発性筋炎とは、慢性あるいは急性に、横紋筋すなわち手や足を動かす筋肉に炎症をおこす非遺伝性の疾患であります.臨床的には、つかれ易さ (易疲労感)や身体の胴体に近い部分の筋肉(近位筋といいます)に優位に筋力低下、筋萎縮そして筋肉痛などを示します.

 具体的には「しゃがんだ姿勢から立ち上がるのが困難となる」「風呂に出入りするのがつらい」「バスに乗る時、足が上りにくい」「階段が昇りにくい」などの症状、上肢の筋力低下により-「洗濯物を物干しにかけるのがつらい」「髪がとかせない」「高いところの物をとれない」「首がだるくて垂れる」などの症状が見られます.これに加えて、眼瞼(まぶた)、手や肘や膝などの関節の部分に紫紅色の皮疹が認められた場合は皮膚筋炎といいます.さらに他の膠原病と同様に発熱、食欲不振、体重減少など全身症状を認めたり、多発性関節炎や間質性肺炎、寒冷時に手指が白くなり、ジンジンしびれたりする症状(レイノー現象といいます)を認めることがあります.また本症では、強皮症、全身性エリテマトーデス(SLE)、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群など他の膠原病を合併することや比較的高齢の男性では胃ガンや肺ガンなどの悪性腫瘍を高率に合併することが知られております.

 さてこの病気の人がどのくらいいるかといいますと有病率は人口10万あたり約6人で、男女比は1対2と女性に多く、すべての年代で発症しますが、発症年齢のピークは40-50歳代といわれております.病気の原因は、今までのところ残念ながら未だにわかっていません.免疫異常を起こす引き金として、ウイルス感染が注目されていますが、本疾患ではまだ特定のウイルスの関与は発見されておりませんし、また筋肉のどの部分をターゲットとして自己免疫異常が起こっているかも分かりません.

 それからこの疾患はどのようにして診断されるかですが、前述のような症状に加えて、炎症反応としてCRPの陽性、赤沈の亢進などがあり、筋肉が壊れるほど高く上昇する酵素つまり筋逸脱酵素である血清クレアチンキナーゼ(CKと略します)活性値の上昇や筋電図検査で筋原性変化が認められますと、本症を疑って筋肉の組織検査を行うことになります.筋病理組織学的には、筋線維の変性・壊死(細胞が壊れて死滅してしまうこと)とリンパ球を主体とした単核炎症細胞の浸潤がみられます.また家族歴のないことが他の代表的な筋肉を障害する病気である進行性筋ジストロフィーなどとの重要な鑑別点の一つとなることもあります.

 治療法としては、薬物療法が中心となり、主に副腎皮質ステロイドホルモンが使用されます.一般には、初回にステロイドの大量投与が行われ、炎症反応や筋力の回復などをみながら、 4-6週間して以後再発に注意しながらゆっくりと最小必要量(維持量)まで減量いたします.薬物療法以外には一般的治療として急性期にはできるだけ安静にし、筋肉に負担をかけないようにすることが大切です.リハビリテーションや理学療法は、筋力の回復に有用ですが、炎症で壊れやすくなっている筋肉をかえって痛める恐れがあり、一般的に血清CK値が薬物療法により低下して正常値近くになったら徐々に開始します.

 また食事療法としては高蛋白食も筋肉の回復を助けるといわれております.一般に筋肉症状に対するステロイド療法の効果は約80%と大多数の患者さんに認められており、日常生活が可能となります.しかしステロイドホルモンの効果が不充分であったり、副作用(感染症の合併、消化性潰瘍、糖尿病、骨粗鬆症、肥満、脱力、興奮・抑うつなどの精神症状など)が出現したためステロイドを充分に使えない場合には、メソトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミドなどの免疫抑制剤が併用されることがあります.

 予後についてはステロイドホルモンが良く効くため膠原病の中ではよいといわれております.しかしステロイドの効果の乏しい例、ステロイドの副作用発現例、強皮症など他の膠原病の合併例、肺に炎症を起こし呼吸困難をきたす間質性肺炎の合併例、悪性腫瘍の合併例などでは予後はよくないこともあり、病因の解明とさらに有効な治療法の開発が期待されております.

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