パニック障害
2003.12.11 放送より
年が明けるとセンター試験などいよいよ受験のシーズンが始まりますね.私は今から18年くらい前に専門医の試験を受けたのが最後の受験ですが、その際には教授3人に囲まれての面接があり、すっかりあがってしまって頭の中が真っ白になってしまいました.
私こう見えても“上がり性”なんです.上がり性は病気ではありませんが、今日はそれよりもっとすごいことになるパニック障害についてお話ししたいと思います.
さてパニック障害といいますと聞き慣れない方もおられるかと思いますが、これは従来、不安神経症の中に入れられていたものの1つで、過換気症候群、心臓神経症、自律神経失調症などといわれている人もこれに相当することが多いようです.すなわち100人に1~3人位の割合で発症年齢は20歳代前半から30歳代半ばであり、女性(男性の2倍)に多くみられます.
その症状としては、米国精神医学会の定義によれば、心臓がドキドキする、冷や汗をかく、体や手足がふるえる、息苦しく呼吸が速くなる、息がつまる、胸の痛みや不快感がおきる、吐き気や腹に嫌な感じがする、めまいやふらつきあるいは頭が軽くなる、非現実的で自分が自分でない感じがする、気が狂ってしまうのではないかと感じる、死ぬのではないかと恐れる、しびれやうずき感がする、寒気またはほてりを感じるなど13の諸症状のうち4つ以上の症状(この中で特に動悸、呼吸困難、めまいなどが多い)が、同時に何の原因もなく突然、睡眠中や1日の内で最もリラックス時にむしろ多く出現し、10分以内にピークを迎えます.そしていったん発作のピークを過ぎれば数分から1時間以内に潮が引くかのように消失いたします.
しかし通常繰り返すことが多く、初回発作から数日~数週間の内に2回目の発作が起こり、以後比較的短期間の内にこのような予期しないパニック発作を繰り返すようになります.そうなると乗り物に乗っている時や会議中など精神的身体的に束縛されるような決まった状況の時に条件反射的に発作をきたすようになってきます.こうして発作が起こるのではと2次的に予期不安を抱くようになります.こういった繰り返す予期しないパニック発作とそれに続く予期不安がそろってパニック障害と診断されます.そしてこの予期不安のためにパニック障害の約70%の人に広場恐怖症(パニック発作が起こった時に逃げ出せなかったり助けを呼べないような特定の場所を避ける)がみられます.また約半数の人はパニック発作や広場恐怖に自発性が減退し、うつ状態を合併するようになります.
病因としてはノルアドレナリンが何らかの原因で脳内に大量に放出されて発症するという説やセロトニンの放出の促進あるいはその受容体の感受性の増加などによって惹起されるという説があり、いずれにしましても脳内の神経伝達物質のアンバランスが原因となっているようです.パニック発作の誘発物質としてはカフェイン、乳酸、酒、タバコなど、薬では喘息に使うイソプロテレノールやピルに含まれるエストロゲンなどがあります.パニック障害には発作の原因となる身体疾患がないことが前提ですので、鑑別すべき疾患として心臓疾患や呼吸器疾患を始め、甲状腺機能亢進症、低血糖症、褐色細胞腫、側頭葉てんかんなどを除外することが必要です.
治療としては、薬としてうつ状態の有無にかかわらず選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)や三環系抗うつ剤などのうつ病の薬と抗パニック作用を有するベンゾジアゼピン系などの抗不安薬が併用して用いられます.予期不安が形成されないようなるべく早くから用いることが大切です.そして症状の軽快が6ヶ月以上続けば1~2ヶ月かけて薬を徐々に減量して休薬することも可能ですが、再発しやすいので焦ってはいけません.また薬物療法以外では、予期不安を解消するため発作に対するイメージを思い浮かべそれに対してリラックスできるよう慣らしていく認知・行動療法や自律訓練法が行われることもあります.
パニック障害については以上ですが、上がり性の私から同じように上がり性でお悩みの方に上がり性を克服するために一言、人前でしゃべったりする時もうこれ以上できないというくらいに前もって勉強したり練習して自信を持つことが上がらないコツですが、いつもそうはゆきません.そんな時私を楽にしてくれた恩師の“人間もうこれでいいということはないので上がらなくなったらその人は成長が止まってそれでおしまいだ”という言葉です.今年の年間ベストセラーになった養老先生の“バカの壁”でも同じようなことがかかれていたと思います.上がり性の人はこの言葉を信じていっそのこと自分はまだまだ成長できると開き直ると案外上がらないかもしれません.
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