自律神経の機能について

2005.04.12 放送より

 前回は脳の機能についてお話しいたしましたので,今日はそれに引き続いて意識や手足の運動などとは直接の関係はありませんが,生きてゆくのに一番重要な働きをしている自律神経についてお話しいたします.

 自律神経は皆様よくご存じのように交感神経と副交感神経という2つの神経から成り立っており(2重支配),しかもこの2つはお互いに拮抗して働いております(拮抗支配).つまりこの2つの神経が緊張状態のバランスを常時うまく取り合って血圧,脈拍,消化吸収,代謝,体温などが調節され生命は維持してゆけるわけです.すなわち交感神経は昼の神経ともいわれこれが緊張すると興奮や戦いの時に優位な状態となり,逆に副交感神経は夜の神経ともいわれ睡眠時やリラックス時に優位になります.

 それではまず自律神経の解剖的なことからお話しいたします.自律神経の中枢は役割ごとに分かれて存在し,前回お話ししました大脳の側頭葉内側面にある辺縁系,脳幹にある間脳という部分の視床下部,延髄,脊髄などにあります.このうち辺縁系とよばれる部分は感覚系の情報の中継点である視床を通じて集められた運動や内臓などの感覚を統合し情動の発現に関係します.視床下部は摂食や飲水の調節,体温の調節などを行っているほか,内分泌系の中枢として甲状腺,副腎などの各種ホルモン分泌のコントロールも行っております.

 視床下部はまた自律神経系と内分泌系の接点となって全身の代謝や生殖活動などをコントロールしております.そして中脳には瞳孔調節,橋には涙腺や唾液腺の調節などの中枢があり,延髄にはご存じのように呼吸や循環の中枢があります.それから脊髄の自律神経の中枢としては交感神経が第1胸髄から第3-4腰髄にかけて副交感神経が仙髄にそれぞれ存在しており,反射的に血圧,発汗,排尿,排便などを調節しております.

 次に交感神経と副交感神経の機能を対比させながらもう少し詳しくお話しいたします.まず交感神経は,視床下部から始まり延髄を通って胸髄までゆきそこから末梢へと神経を出してゆきます.これに対して副交感神経は,脳幹および仙髄から始まって末梢へと神経を出しております.このうち延髄から出ている迷走神経は前回お話いたしましたように脳内から気管支,肺,心臓,胃や腸と実に体の半分にも及ぶほどの長さの神経を体に送っています.

 そしてそれぞれの機能ですが,体の上から順番にいきますと,まず瞳孔ですが,交感神経が緊張すると散大し,副交感神経が緊張すると収縮します.次に呼吸ですが,気道は交感神経刺激で拡張し,副交感神経では収縮します.また呼吸自体も交感神経によって早く大きくなり,副交感神経緊張ではその逆となります.それから血圧ですが,交感神経が緊張すると心臓は心拍数や収縮力が増えさらに血管も収縮し上昇します.

 これに対して副交感神経が緊張しますと徐脈となり心収縮力も低下し血圧は下降します.次に胃腸の運動や消化液の分泌は交感神経で抑制され,副交感神経では促進されます.また肝臓では交感神経刺激でグリコーゲンを分解し血糖が上昇し,副交感刺激ではグリコーゲンの合成が盛んになり血糖は低下します.それから膀胱は交感神経の緊張で膀胱壁の筋肉は緩み膀胱頚部の筋肉は締まります(尿は出にくくなります).これに対して副交感神経の緊張により膀胱壁の筋肉は収縮し排尿が起こります.これ以外では,皮膚の立毛筋や汗腺は交感神経の単独支配で交感神経の緊張により,それぞれ刺激され筋収縮が起こり鳥肌となったり,汗の分泌量が増加します.

 以上のように交感神経と副交感神経は相反する作用を示しており,交感神経が緊張するとあたかも戦いに望むがごとくで「かっと目は見開き,喉はからからで血圧や脈拍は上昇し,お腹もすかないし尿意も催さない」というような状態になります.これに対して副交感神経緊張状態では,その逆で血圧や脈拍は下降し,唾液が出たりお腹が鳴って空腹感を訴えたり尿意を感じたりします.この状態は睡眠中や食事前後の状態で生きてゆくためのエネルギーを体に蓄える状態ともいえます.

 さてこれまで自律神経の機能についてお話ししてきましたが,これらが本当に麻痺して機能障害をきたしますと呼吸筋麻痺,ショック,腸閉塞など重大な事態となってしまいます.これに対して自律神経の障害という意味で使っていて皆様よくご存じの自律神経失調症という言葉は,実は正式な病名ではありません.

 めまい,不眠,顔の火照り,四肢の冷感,便秘などさまざまな症状に対していろいろ調べてみても何も異常が見つからない時に,これらがちょうど交感神経と副交感神経の緊張のバランスが崩れたことに起因する症状であるがために便宜上診断名として使用しております.これらの中には本来はうつ病,パニック障害,心身症などの病名がつくような病態がかくれていることもありますので簡単にこの言葉を使って片付けずにきちんと専門医に見てもらう必要があるように思います.

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