パーキンソン病における新しい手術療法について

2004.03.30 放送より

 パーキンソン病につきましては、少し以前になりますが薬物療法の解説をいたしました.今日は最近注目されております心臓に入れるのと同じようなペースメーカーの電極を用いた新しい手術法についてお話いたします.

 その前に有名な病気なので知っている方も多いかと思いますが、まずパーキンソン病についてご説明いたします.この病気は特に安静時に見られる手足の振るえ(振戦)、筋肉がこわばって硬くなり手足や体が曲げたり伸ばしたりしづらくなる(筋固縮)、顔の表情が乏しくなったり、声が小さくなったり、小さな字しか書けなくなったりあるいは動作が少なくなったり小さくなったりしかつ遅くなったりする(無動)が三大徴候です.病気が進行してゆきますとこれらにさらに体位変換障害あるいは立ち直り反射の障害といっていったん身体が傾き始めると分かっていても立て直すことが出来ず、よろめいたり倒れてしまう症状が加わってきます.この病気の原因はまだよく分かっていませんが、中脳の黒質という脳の奥の方の部位のメラニン含有神経細胞が変性といってどんどんと死んで減少してゆき発症することが分かっています.そしてこのメラニン含有神経細胞では抑制性の神経伝達物質であるドーパミンが産生されております.

 そのためパーキンソン病の患者さんではこのドーパミンが欠乏しており、中脳からこのドーパミンが運ばれる先である線条体や視床の神経細胞が過剰に興奮していろいろな症状が出るといわれています.そこで治療の基本となるのがこのドーパミンを補充することです.ドーパミンはそのままでは脳の中には入ってゆくための関所ともいうべき血液脳関門というところを通過出来ませんので、ドーパミンの前駆物質であり、血液脳関門を通過出来るL-ドーパの製剤を使用します.この他にもドーパミン受容体アゴニストといいドーパミン受容体に結合してドーパミンの代わりをする薬剤や、ドーパミンの分解を抑制するMAO-B阻害剤、あるいはドーパミンの合成を促進させたり放出を促進させたりする薬剤など非常に多くの種類の抗パーキンソン病薬があります.

 L-ドーパ製剤は、パーキンソン病の進行や投与期間の長期化とともに次第に効きにくくなってきますので、これら多くの種類の薬剤を組み合わせて治療してゆくことになります.そういたしますと今度は薬の量が増えることになり薬の副作用として悪心や食欲不振などの消化器症状、幻覚や妄想などの精神症状、口や身体などが不規則に勝手に動くジスキネジアやジストニアなどの不随運動などがみられるようになり、薬は効くのだけれど副作用のため使い切れない状態に陥ってしまうことがあります.このような時に薬を減量すると今度はパーキンソン症状が強くて動けなくなるようであれば、手術を考慮する必要が出てまいります.

 手術としては、まず定位脳手術といいまして頭蓋骨に1円玉くらいの孔を開けてそこから電極を差し込み黒質の神経細胞から線維連絡を受けてドーパミンを受け取る側の視床や淡蒼球を高周波電流で焼きつぶす方法があります.この方法はL-ドーパによる薬物療法より以前から知られており、振戦や筋固縮を中心に有効なのですが、両側性にしにくいこと、2度目の手術がやりにくく効果が長く続かないことなどの欠点がありました.

 それに対して新しい手術法として2000年4月に保険適応となったペースメーカー電極を利用した脳深部刺激法は、脳を熱凝固させるのではなく脳神経細胞を電気刺激で1時的に失神状態にさせ余分な興奮を取り除く方法です.手術の仕方は始めに局所麻酔下で頭蓋骨に孔を開けCTやMRIで位置決めした場所めがけて細胞の活動を電気的にモニターしながら電極を進めてゆきます.そして目標となる視床、淡蒼球、視床下核などの神経細胞に到達したら患者さん1人1人の症状に合わせてテスト刺激として電気刺激の強さを変えながら症状がとれる刺激条件を決めます.そしてうまく治療出来ることを確認したら、後日心臓の時に用いるようなパルス発生器を全身麻酔下で前胸部の鎖骨下に埋め込みます.


この方法では術後も症状の進行や変化に応じて刺激条件を変えられること、両側性に手術が可能であること、神経細胞に不可逆的な変化が起こることが少ないので手足や顔のぴりぴり感や脱力、めまいやふらふら感、言葉の障害などの副作用が出ても自分で外から刺激を止めることにより副作用を止めることが出来るなどの長所があります.手術に伴うリスクとして脳内での出血、てんかん発作、感染症などがありますが、70歳以下の人でL-ドーパ製剤は良く効くのだけれど副作用などのため使い切れずコントロールに困っている人などがこの手術を受ける良い適応があると思います.

 現在では徳島県内でも数カ所の施設ですでに行われるようになっております.いきなり手術で脳神経外科にかかるのは嫌だと思われている方も多いかもしれませんが、内科の主治医の先生と相談の上、1度検討してみても良いのではないかと思われます.

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