パーキンソン病の患者さんからの質問

2000.06.13 放送より

上板町にお住まいの58歳の女性の方よりのご質問.約2年前より左手が振るえるようになり、パーキンソン病といわれた.

 

1.まだ薬をもらっていないが、いつから薬をのみ始めるのか

  そもそもパーキンソン病については、昨年一度お話しいたしましたが、安静時の手足のふるえ(振戦)、筋肉が硬くなり手や足などを曲げたり伸ばしたりしづらくなる(筋固縮)、それに表情が乏しくなったり、声が小さくなったりと動作が小さくかつ遅くなったり動きにくくなったりする(無動)などが主な症状です.病気の原因はまだよく分かっていませんが、中脳の黒質という脳の奥の方の部分の神経の一部が変性といいましてどんどんと死んで減少してゆき発症いたします.この方のご質問に関してですが、現在のこの方の状態がお便りからではよく分かりませんが、一般にはヤールのステージ分類といいましてパーキンソン病の進行状況をⅠからⅤまでに分け、そのⅡかそれ以上の状態になれば治療を開始するといわれています.もう少し説明いたしますと、ヤールのⅠ度というのはふるえや筋の固縮が右手か左手など一側性の障害で機能障害もほとんどない状態です.Ⅱ度になりますと左右両側におよびますが、日常生活や仕事にはさほど影響はありません.Ⅲ度になりますと転びやすくなり日常生活にも支障がでますが何とか介助は必要でなく、Ⅳ度では立ったり座ったりにも手助けが必要となり、Ⅴ度では寝たきりあるいは座ったきりになります.年齢が若いかどうか、職業の内容、症状のある部位が利き手かどうか、あるいはご本人の気の持ちようなどで多少異なりますが、大体、不自由さが気になりだした頃が飲み始めのことが多いようです.

 

2.どんな薬があるのか

 パーキンソン病は、神経難病の中でも病態が比較的良く分かっていて、黒質の神経細胞に含まれるドーパミンという神経伝達物質の欠乏により主な症状が出るといわれており、このドーパミンを補充する治療が薬物療法として行われております.振戦、筋固縮、無動とすべての症状に最も有効でかつ副作用が比較的少ないのが、このドーパミンの前駆物質であるL-ドーパ製剤です. ただし、L-ドーパの投与は、病気の進行や投与期間の長期化とともに次第に効きにくくなります.大体、使い始めて7、8年といわれておりますので、寿命などを考えてなるべく70歳ころまでは使わない方がよいといわれています.次にそのドーパミンの使用開始時期を送らせるあるいは使用量を節約するためにドーパミン受容体アゴニストという薬が各種開発されています.これは、ドーパミンの替わりにドーパミンの受容体に作用するものでL-ドーパ製剤ほどの効果はありませんが、元々体の中に存在しないものですから、分解されにくく穏やかな作用で効果が長続きするため用いられます.また最近ではドーパミンを分解するMAO-Bという酵素を阻害する薬も売り出され、これもL-ドーパの節約に効果があります.これ以外にも神経からのドーパミン放出作用があるといわれている塩酸アマンタジンやすくみ症状にきくといわれているドプスなどたくさんの薬剤があります.患者さんの数も他の神経難病よりも格段に多いためかこれら以外にも続々と新しい薬が開発されているようです.

 

3.手術も良いと聞いたが

 手術には、大きく分けて定位脳手術といいまして大脳の中奥深くまで電極を進め電気的にそこの神経細胞を焼きつぶしたり、麻痺させたりする治療法とドーパミンなどを産生する神経細胞の移植術に分けられます.定位脳手術の方は、歴史も薬物療法より古いくらいで、効果もある程度確立されています.最近では焼きつぶすという従来の方法では、治療は何度も繰り返せないため、電気的な刺激を反復させることにより一時的に神経の麻痺を起こさせるという新しい治療法が開発されてきております.一方、神経細胞の移植は、移植に用いる神経細胞に何を使うかなどまだまだ問題が多いようで、将来もっと遺伝子工学が進みそれらの問題が解決するとより究極の治療法としてもっと普及する可能性があります.いずれにいたしましても、現時点では手術は、新しい薬物がどんどん開発され薬物療法の選択肢が増えてきたことや体に負担も強いることにより、薬物療法の効果が減弱してきた時とか副作用が問題となり使えなくなった時など限られた場合に行われるようです.

 

 ご質問の方もお便りだけではよく分かりませんが、お薬はなるべく少ない方が良いかと思いますので主治医の先生とよくご相談してくださればと思います.

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