認知症の検査について
2013.07.14 放送より
日本の認知症は,2020年頃に300万人を超えるのではと予想されていましたが,昨年末の発表では既に462万人と推測され,予想を遙かに超えた速度で増えていることが分かりました.神経内科で取り扱うcommon disease(数が多くより一般的,代表的な疾患)の1つにあげられており,正しく国民病ともいうべき病気となってまいりました.このため認知症は早期発見・早期治療が重要と考えられてきており,本日はその診断のための検査や治療効果判定のための検査についてお話いたします.
そもそも認知症は,2011年の新しい診断基準では新しい情報の記憶障害,思考力や判断力などの低下,視空間認知機能の低下,失語,人格・行動・態度の変化などのうち2つ以上の障害があり,そのために仕事や日常生活に支障をきたしている状態であり,せん妄などの意識障害やうつを始めとした主要な精神障害が否定されており,病歴と客観的な認知機能検査の両方により認知機能の低下が確認される状態と定義されております.そしてその主要な症状は大きく2つに分けられます.すなわち認知症にはほぼ必発すると言われている中核症状と認知症に加えてその人の体調や周囲の環境などの影響により出現してくる周辺症状であります.このうち中核症状に属するのは,記憶障害,判断力の障害,問題解決能力の障害,実行機能障害,それに失行・失認・失語など高次機能障害であります.それから周辺症状には,幻覚や妄想,不安・焦燥・抑うつなどの精神症状,暴言・暴力,介護への抵抗,徘徊や不潔行為といったいわゆる問題行動,異食や過食といった食行動の異常,睡眠障害や排尿障害などもみられます.これら周辺症状の出現には,認知症に加えていろいろな要因がからんで出現しております.
さてそれでは認知症の中にどのような病気があるかお話しいたします.まずはアルツハイマー型認知症です.この病気は最も頻度が高くて認知症の50%以上を占めており,そのため認知症の代名詞とも言われるくらい有名です.その特徴は,短期記憶障害から発症することが多く,見当識障害や理解力や思考力なども障害され,徐々に社会生活や日常生活に支障をきたしてゆきますが,局所の神経症状を伴いにくいことです.この病気は,側頭葉の海馬という記憶の中枢とも言うべき部位の萎縮が特徴的で,その部位にβ-アミロイドという物質が沈着していることからこれを何とか阻止して病気の根本的な治療につながらないかと様々な研究がなされております.次に多いのが約20%を占めると言われている脳血管性認知症で,これは1部には遺伝的なものもありますが,通常は動脈硬化と関係があり,脳梗塞の積み重ねなどで階段的に悪化してゆき,また麻痺や感覚障害などの局所の神経症状を認めることが多いようです.それから最近注目されていますのがパーキンソン症状に関連した認知症で,これも約20%を占めると言われており,レビー小体型認知症などがあります.さらに前頭側頭葉変性症という病気があり,これは約5%と頻度は少ないのですが,初期から性格変化などをきたして反社会的な行動をおこすなど特徴的な病気です.それ以外には内科的疾患では甲状腺機能低下症に伴う認知症,脳外科的疾患では慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症など,原因があってそれを治療することによって良くなる可能性のある認知症も5%くらいはあると言われております.
それでは認知症診断のための検査についてお話いたします.認知症と診断するためには,まずは認知症を疑ってスクリーニング検査を行います.このスクリーニング検査にはMMSE(Mini-Mental State Examination)や長谷川式認知症スケールなどがあります.このうちMMSEは11の設問からなり,記憶や見当識だけでなく失語,失行,失認なども総合的に検査し,23点以下が認知症とされています.これにより認知症が疑われると神経学的診察を行い,さらに血液検査による内科疾患の除外を行い,脳MRI,脳血流シンチなどの画像検査でさまざまな認知症の鑑別を行います.このうちアルツハイマー型認知症についてはMRI検査を利用して海馬の萎縮を定量的に評価できるVS-RADやアミロイドの沈着を可視化するアミロイドPETなどの新しい検査が注目されています.それから診断がついた後,治療が始まりますが,アルツハイマー型認知症の場合,この治療効果の判定に用いられる検査としてADAS-Cogという検査があります.これを簡単に検査できるDT-Naviという機械があり,これにより記憶,言語,行為などに対して11の項目の検査を行い,正常を0とし,最も重い障害を70で表します.アルツハイマー型認知症では自然経過では年間9-11点の上昇が見られると言われており,その点数の経過を見ることにより治療効果の判定が可能となります.
従来は初期症状を単なる老化として見過ごしてしまい,進行して周辺症状の出現により日常生活で問題となってから初めて受診されることも多いと思われますが,治療薬も数多く開発されており,症状などによって選べるようになってきておりますので,新しい検査などを利用して早期発見・早期治療を行い,できる限りQOLを保てるようにしてゆく必要があるかと思います.
★当院では、DT-Naviを導入しています。DT-Naviについてはこちら
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